近本光司

小間使の日記の近本光司のレビュー・感想・評価

小間使の日記(1963年製作の映画)
4.5
1930年代のフランス。モダンな雰囲気を纏ったジャンヌ・モローが小間使いとしてパリから鄙びた土地に立つ豪邸にやってくる。夜な夜な部屋に呼び出し秘蔵の女性靴のコレクションを履かせる老主人。あらたな女中の若さに嫉妬する神経質な娘。性欲をもてあました気弱な婿(ミシェル・ピコリの困り眉!)。気性の荒い御者。フランス語訛りのある不幸せな女中。隣人とはいがみ合っていて、来る日も来る日も小競り合いが絶えない。この寒々とした土地の閉塞感はあらゆる人間の性格を捻じ曲げ、人間関係を発酵させてゆく。来客の男たちはユダヤ人への嫌悪感を滲ませた差別的言動を隠そうとすらしない。唯一まっすぐな心をもっていた少女は森のなかで殺されてしまう。その環境でモローは正義を貫くでもなく、自らのうちに潜む邪悪さへの欲望が徐々に肥大化していく。ひとつの人間の真実で、この町に向かう冒頭の車窓を映したオープニングから、外国人排斥を叫ぶデモ隊が路地の奥に消えていくラストまで息つく暇がないほどの見事な展開! 少女の遺骸を這うカタツムリ。この映画に登場する人間の欲望の醜さ、あるいは悪の快楽はわれわれを何かしら魅惑して離さないものがあると認めざるをえない。ジャン=クロード・カリエールとブニュエルの蜜月のはじまり!