Jeffrey

ヘカテのJeffreyのレビュー・感想・評価

ヘカテ(1982年製作の映画)
3.8
「ヘカテ」

本作はポール・モーランの原作"ヘカテの犬たち"の映画化で、1982年にスイス、フランス合作の作品。ダニエル・シュミットの最高傑作と言われている映画が、この度再上映され、国内で初BD化されたのを購入してようやく初鑑賞できたが素晴らしいの一言だった。ローレン・ハットン が美しい。DVDは廃盤でものすごく高くてなかなか見れなかったが彼の作品をもっと見たいと思った。とりわけ早く「デ・ジャ・ヴュ」をソフト化して欲しい。この作品はシュミット監督による日本初公開作品で、その後の熱狂的なシュミット・ブームを生んだ記念碑的作品とされているようだ。そんなスイスの至宝とされる監督のHDリマスターで蘇り、艶麗なる名編が完全修復され蘇った。

戦間期にスイスに亡命し、シャネルの伝記を執筆した作家ポール・モランの小説を下敷きに、シュミット監督がギリシャ神話の女神ヘカテの物語を翻訳、極限のメロドラマを作り上げて、恋の果てにあるのは死だと言う、謎めいたアメリカ人妻クロチルド役には、2018年に史上最年長の73歳で米(ヴォーグ)の表紙を飾ったスーパーモデルにして女優のローレン・ハットン。彼女の虜となり愛憎に溺れて行く外交官役に、洗礼されたエロスを漂わせるベルナール・ジロドー。ディオールがデザインしたスーツに身を包み、北アフリカの地で、魔窟の街を彷徨い歩く。撮影をシュミット作品の多くを手がけ、ルイ・マル、ロメール、ゴダールやストローブ=ユイレほか多くのアート系作品に携わってきた名匠レナード・ベルタで、美術のラウール・ヒメネスがエキゾチックな空間を作り上げて、マルグリット・デュラスの作品で知られるカルロス・ダレッシオの音楽が見るものを夢のような酩酎へと誘う。

物語は、1942年、第二次世界大戦中のスイス、首都ベルン。パーティーで、1人遠くを見つめる外交官ジュリアン・ロシェルは、かつて狂おしいほどに愛したある女性を思い出す。北アフリカに赴任した外交官。そこで彼は、ある女に出会った。女は誰よりも美しく、余計な詮索をせず、彼をありのまま受け入れてくれる、まさに理想の女。男は衝動に任せて全てを委ねるものの、いつしか支配欲に駆られ、嫉妬に狂い、身を落としていく。やがて女は忽然と消え、後に残るのは甘美で苦い記憶だけだった…と簡単に説明するとこんな感じで、冒頭のバイオリン弾く男性のファースト・ショットから魅了される。そんで脇毛を生やしたハットンのエロいドレス姿はたまらないものがある。夜のダンスシーンも魅力的。

てゆうか付属のリーフレットを読んだけど、原作者は外交官だったのね、亡命先のスイスでココ・シャネルの伝記も執筆して、戦間期の文豪の寵児として知られているようだ。ちなみにヘカテとは冥界と結びつき、夜、魔術、妖怪を支配するとされる古代ギリシャ神話の女神の事だそうだ。そんなヘカテ伝説をモチーフに、シュミットは恋と言う人類最大の病にして謎の極限を鮮やかに描き切って永遠のきらめきを放つ最高級のメロドラマに仕立て上げていた。そういえばシュミットはー族が所有して経営する四ツ星ホテルを住居として成長期を過ごしていたが、確かそれを舞台にした「季節のはざまで」と言う作品があるが、これも早くブルーレイで見てみたい。とにかくアングルの古典的な撮り方がすごく良い。しかも内面化しつつ、美の情念を蝋の様に溶かしていく感じと、愛の虚無感が半端ない。退屈だが画作りは凝っていて独創性に満ちている。
Jeffrey

Jeffrey