ブラックユーモアホフマン

チェンジリングのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

チェンジリング(2008年製作の映画)
4.6
すげえ〜超面白え〜。
142分あっという間。リヴェットには申し訳ないけどこういうのを面白い映画って言うんだって思っちゃうなどうしても。
イーストウッドの演出の巧さは言わずもがな。言わずもがななのがもう凄いけど。なんでこんなに全部面白いの?

一つの話の中に色んなジャンルの映画が詰め込まれてる。初めは『ミスティック・リバー』っぽい。ティム・ロビンスが子供の頃に誘拐されて、帰ってきたら人が変わっちゃってたって話。「戦争から帰ってくると人が変わってるのと同じです」っていうのは『アメリカン・スナイパー』とかも思い出す。

でもそこから「私が頭オカシイの?」系の胸糞展開。ジョディ・フォスターの『フライトプラン』とかクレア・フォイの『アンセイン〜狂気の真実〜』とかベラ・ファーミガの『エスター』みたいな。「また女がヒステリー起こしてるよ面倒くせえな」みたいに言われてマトモに取り合ってくれない最悪のやつ。大抵権力を持ってるのは男。こういう映画は沢山あると思うけど昔からフェミニズム的な視点が強いジャンルなんだ。シスターフッド的な描写もあった。本作も今こそ観られるべき映画だと思うし、今こそ作られていいジャンル。

そしてシリアルキラーもの。これはフィンチャーの『セブン』や『ゾディアック』、「マインドハンター」も思い出すしドラマ「トゥルー・ディテクティブ」とか『殺人の追憶』とか『悪魔のいけにえ』とかなどなども思い出す。演じてたのはジェイソン・バトラー・ハーナー。ジェイソン・ベイトマンのNetflixドラマ「オザークへようこそ」にも出てた。けど、どんな役だったかは忘れた!!笑 もっと売れていい俳優。誰かに似てる。ショーケンに似てると思うけど、佐藤浩市みもあるしバナナマン設楽統みもあるし、目は濱田岳にも似てる気がする。

シリアルキラーはもちろん悪い奴だが、しかし病気みたいなもんでもあるから、仕方ないとまでは言わないけれども、正しようもないところはある。親の立場になってみれば当然許せないけれども。
しかしそれよりも、マトモそうな顔しながら「面倒くさい」とか「立場を守りたい」とかそんなクソみたいな理由で、平気で人の尊厳を踏みにじり人生を台無しにできてしまう神経を持った警察やあの病院の医者や看護師たちの方がよっぽど頭おかしいと思う。はらわたが煮えくり返る。お前ら、自分らがマトモな人間だと主張するんであれば、もっと正常な判断ができるはずだろう?と。存在そのものが悪みたいなシリアルキラーよりも、存在そのものは正義みたいなツラした警察の悪行の方がよほどタチが悪い。

腹立つ顔のキャスティングが良い。ジェフリー・ドノヴァン、マイケル・ケリー、リキ・リンドホームなど。名前は覚えてないけど顔を見るたびにムカムカさせられる名脇役たちが勢揃い。この辺のキャスティングの絶妙さは『ミリオンダラー・ベイビー』のヒラリー・スワンクの家族なんかも思い出す。

物語の締め方も素晴らしく巧い。人の高潔な心を描くのは『15時17分、パリ行き』などにも通ずるイーストウッドらしさ。そしてやはりキリスト教徒はヒーローとして描く。しかし現実には腐敗するのは警察や政治家ばかりとは限らない。『スポットライト 世紀のスクープ』で描かれたように宗教家もまた権力を有しており、神に仕えていても腐るときは腐る。本作のマルコヴィッチは立派だったが。

この頃から100年ほど経って社会はどれくらい前進できているんだろうか。「さすがに現代においてもうこんなことはない」?本当か?だったらなぜ戦争なんて起きてるんだ。入管での暴行はまさにこの映画で描かれてることそのものじゃないか。100年も経ってるのに何してんだよみっともない!
結局、権力は簡単に人を腐敗させるし、そこの人間の本質は何年経とうが何も変わらないってことだ。残念ながら。どの時代も毎回一から学び直す必要がある。人間は想像以上にバカだから。

そういうことを思い出させてくれる、こういう映画は必要。例え観ていて気分が悪くなっても。「嫌な気持ちにさせられる映画を何故わざわざ作るのか意味が分からない」とかって人が言ってるのを最近聞いて絶望した。お幸せでよろしいござんすなあ!!頭ん中お花畑か!!

【一番好きなシーン】
・刑執行
・ラスト