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蘇える金狼のfotobのレビュー・感想・評価

蘇える金狼(1979年製作の映画)
2.5
この映画のテーマは人の二面性ではないだろうかと思いました。
昼の軟弱サラリーマンと夜の極悪私刑人。
大人なら誰もが抱いている善悪二面性をうまく突くような設定にしましたね、という第一印象です。
しかも描き方が露悪的だから絵にしやすいし、1979年という過渡期の時代、つまりイケイケの新価値観の台頭と、会社や権力者や典型的な男女という旧来的な価値観がまだまだ根強かった時代にも合ってたな、と。

キャスティングもそうで、松田優作に風吹ジュンという、80年代に入るとより開花していく新世代スターに対し、60年代からやってきた旧演技人(しかもアクの強い俳優ばかり)を配置したのも、役者が足りない実情よりそうした二面性を際立たせる配役にしたかったのではないでしょうか。

で、人はそもそもそんな単純な二面性だけで存在してるはずもなく、ひとりの中にはとんでもない多様性が眠ってるわけですが、映画は後半に至っても多様性まではテーマにするつもりはなくて、分かりやすい「昼は羊で夜はオオカミ」式の二面性変身願望に、金銭への野心(5千万だ一億だと金額が威勢よく飛び交う映画です)と男女の性愛を絡ませて物語を進めていくのみでした。

多様性を描きたかったら風吹ジュンの内面描写にもっと踏み込めば深みが出たのに。セリフで「好きなの」とか言わせて裸出してる以上の演出が出きてれば、終盤における主人公への一刺しの説得力はもっと色濃くできたはず。
それは成田三樹夫をおネエっぽくさせたり、岸田森にヘンなしゃべりや挙動をさせるよりも多様性の描写に貢献できたはず。だいいち主人公に成り上がりの動機がないです。

チャールズブロンソンの「狼よさらば」(1974)なんかも夜のダークヒーローものだけど、殺戮者に堕ちんとする主人公の逡巡はキチンと表現されていたワケで、こういうのが多様性の描写なんじゃないかなと思うのです。何でもかんでも描くわけじゃなく、ポイントを押さえるってことですね。

後半でスーパーカーを納車されてもぶっきらぼうにしか振る舞えないのは、キャラがそうだからだけじゃなく、「金持ちの記号」に虚しさを感じたからなんじゃないかと思いました。でもそこは割とあっさり、ほかに1台も走ってない公道でひとりで走るシーンをかぶせて主人公を虚無的に笑わせるだけで終わらせてる。
ここも多面性を出すならいいポイントだったのに。醸し出すだけで終わってたと思います。

旅券をちぎって風吹ジュンの遺体にばら撒くのも、主人公の内面描写が足りないように感じた私には、唐突でわかりにくかったっス。

ということで後半、すべてを手に入れた主人公がすべてを急速に失ってゆく展開に対し、製作側は狂気みたいなのものでその理由を代弁させ、ケムに巻くような終わりにせざるを得なかったのではないかと。あの「狂い」は演技で観客を怖がらせてるだけで、そうなるに至った基盤は感じ取れないなぁ。部屋の中で雄たけびを上げて動きまわっても、主人公に動機の描写はないからカラ回りの狂気風演技にしか見えないです。少なくとも私には。

前半は単純な二面性で表層やストーリーを描いててそれはそれで良いんですが、後半はそれを支えてきた背景に焦点を当てて内面的な演出に絞り込めば、松田優作の幅ももっと出せたし、映画の強度も上がって全体にも深みが出たと思う作品でした。
前半はあの時代の邦画ならではバタ臭さも面白かったので全体としては2.5にしました。

以上、原作も読んでないのに偉そうにすみません笑
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