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男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼けのmatchypotterのレビュー・感想・評価

4.1
今年もこのシリーズには引き続きお世話になります。どこまで行けるか。

『男はつらいよ』、第17作目。

今回の冒頭の夢の寸劇、『ジョーズ』意識か。人喰いザメ、て。笑う。世相を表す冒頭。

しかしながら、ここ最近の寸劇の中では1番寅さんの風体がよく似合う、漁師。それにしてもいつもの姿で船に乗ってるさくらちゃん、そのままサメの餌食で足だけ残って「おい、さくらー、こんちくしょう!」って、笑う。

今回はそのまま普通に団子屋に戻ってくる。
ミツオが小学生に上がったもんだから気前よく祝いでも、と。
そしたら、悲しい面持ちで入学式から帰ってくるさくらちゃんとミツオ。

まさかのミツオの小学生の門出にまで、そこにいもしないのに、寅さん、ミツオとさくらちゃんに恥をかかす。寅さんのとこの甥と言うだけで笑いのタネ。

しかしながら、寅さん、それ聞いて怒り出す。
団子屋連中もそれに驚くものの、寅さんはこれまでお騒がせな男ではあるものの、後ろ指刺されることは何1つしていないと怒り出す。

今回はそうした「人間は外見や第1印象で決めてはいけない」、そんなわかりやすい寓意が込められてる。

寅さんがその一件で拗ねて飛び出し、立ち寄った赤提灯で、へべれけで無銭飲食しかけてるみすぼらしいおっちゃんの飲み食いの肩代わりをする。

そのままみすぼらしいおっちゃんと団子屋に転がり込む。
団子屋連中、誰だか知らない見た目も最悪なおっちゃんを住まわすことになり、てんやわんや。
おっちゃんも、お茶だの風呂焚けだの、横柄な振る舞い。

それがお互いの飛んだ勘違い。
おっちゃんは団子屋をどこぞの宿屋だと勘違いし、おっちゃんも実はとんでもない傑物だった。

人は見かけによらずの王道パターン。

そこからその傑物のおっちゃんと旅先でまた出会う。
今度はそのおっちゃんは本業の傑物として大層に扱われる堅苦しい故郷への凱旋旅みたいなことになっていて、そんなところに寅さんが現れ再開を喜ぶうちになぜだかその堅苦しい凱旋旅におっちゃんのご意見番みたいな形で同伴。

同伴どころか、もてなす旅館側はおっちゃんと寅さんを両名で“歓迎”とか看板出しちゃうほど。至れり尽くせり。

おっちゃんにもそれなりの過去があり、後悔や、哀愁漂う面影がある。
そんなこと、ご意見番のクセにちっとも我関せず、毎日芸者遊びの接待三昧。

そこで出会った芸妓さん、太地喜和子。
チャキチャキしてて、気の利く大胆な女性。
その旅の後、本当に寅さんに会いに団子屋にやってくる。

そんな華やかな世界で生きる芸妓さんにも色々事情がある。一言で言えば騙されて自分の金を注ぎ込んで無一文になり、その相手を探しに上京してきていた。

みすぼらしいおっちゃん、華やかな芸妓さん、人は見かけによらず色んな人がいて、色んなものを背負って生きている。

見た目はちょっとアレでも傑物として担がれてる裏で過去の後悔に縛られ、華やかな世界で生きてる芸妓さんでも立場が弱くて貸してしまったお金は焦げついてにっちもさっちもいかない。

そんなそれぞれの事情なぞお構いなし。
それが、風天の寅。

騙し取られた金はなかなか簡単に「返せと言って返ってくるモノ」ではなく、彼女のために何とかしてあげたくて、傑物のおっちゃんに「絵を描いてもらってそれを持たせてあげて肩代わり」できるほどおっちゃん絵描きの腕は便利なものではない。

普通に考えればそんなに世の中甘くない。
しかし、それが彼には何とも不条理に思えてならず、黙って納得できるほど人間ができてない。

世の中の常を常とせず、それは仕方ないですねと黙ってもいられない。
そんな曲がったことが大嫌いな男、風天の寅が、そこに首を突っ込み、何ができるわけでもないが、ただただ人の心を突き動かす。

彼が金を無心するわけでも、事態を丸く収めるわけでもないが、彼がいたことで何かが前向きに変わる。

人の心を動かす天才、決して、人に笑われるネタになるような男ではない。彼ほどの味方はいない。

このおっちゃんも、芸妓さんも、今回はゲストの面々の寅さんとの関係性や掛け合いがとても味わい深い感じで良かった。
今回は寅さんの無鉄砲さが周りに作用して、明らかに何かが変わった瞬間があってとても暖かかった。

さりげなく寺尾聰が出てる。既に渋い。
特に何か重要な役やエピソードはないのだけど、しっかり存在感があって何か画面にいると不思議な安心感。相変わらず素敵なおじさん。

この絵描きのおっちゃん、すごく良かった。
このシリーズ、たまに“おかわり”で登場があるけど、このおっちゃん、また会いたい。


F:1949
M:2287
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