2級蘊蓄士

日本のいちばん長い日の2級蘊蓄士のレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
3.3
不肖ながら本作の題材である宮城事件について初めて知りました。

登場人物が多すぎて何が何やらと思いますが、制服の人と背広の人だけ区別できれば大筋は理解できました。

終戦から75年、公開から53年も経った現在から振り返ると、青年将校たちがやったことがなんと無益なことかと思います。そんなことに無駄な時間や労力をかけるなよ、と。しかし出兵した彼らの立場からすれば若い時代を無理やり家族や故郷から引き離され人殺しの訓練をさせられていたのですから、それが無に帰するとすれば怒りの矛先を政治指導者に向けるのは理解できます。戦績を上げることでしか自己肯定できない彼らも戦争の被害者であるように感じました。

阿南さんは一貫して陸軍の将兵の反発を抑えることを考えています。「ご聖断」以前の閣僚会議でさえ、彼の主張の根拠は部下を思う心から来るように見て取れました。そう、彼は一度たりとも個人の意見を言っていないのです。人に公と私の部分があるとすると彼の場合はそのほとんどが公で、終戦を迎えるにあたりその公さえも彼からはなくなるとなると予見できたのでしょう。だからこそ、自決をした。終戦後の日本社会において元軍人の雇用先として警察になれるよう根回しをしていたエピソードも特徴的で、とても聡明な人柄に描かれていました。

「未成熟な人間の特徴は、理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。これに反して成熟した人間の特徴は、理想のために卑小な生を選ぼうとする点にある。」JDサリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』にある精神科医の言葉の孫引きです。宮城事件は青年将校たちが引き起こしたと言われていますが、青年将校とふつうの将校の違いは若いか否かです。この事件は彼らの若さからくる未成熟さゆえに引き起こされ、未遂に終わると知るや否や自決という高貴な死を選んだと思いました。
2級蘊蓄士

2級蘊蓄士