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空飛ぶ生首のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

空飛ぶ生首(1960年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

トムは若い女性メグとの婚約を機に、愛人ヴァイに別れ話を持ち掛ける。ヴァイはそれを許さず、トムの古い手紙を婚約者に見せると言い出した。堪りかねたトムは偶然を装い、ヴァイを殺害してしまう。あくる日からトムの周りで次々と怪奇現象が起こり始める…。

直接怪物に襲われる生命の危機が怖いと感じるようなハリウッド式ホラー的ではなく、幽霊や怪奇現象に主人公が悩まされる様が日本の怪談に近い味わいのホラーの佳作。

手を伸ばせば助けられたのだが、見放して灯台からヴァイ落としたトム。
翌日、ヴァイの死体を発見し、海岸に運ぶが、死体が目の前で海草に変わる。
トムは罪の意識から見た幻想だと思い込もうとするのだが、ヴァイの幻影を見たり、彼女の遺留品が発見されたり、「彼女が来たはずだが行方不明なのは、お前が殺したからだ」と船乗りに脅迫されたりして、トムは精神的に追い詰められていく。

事実上は事故死だが、ヴァイは死んだ後も「あなたが私を殺したのよ」と悪霊と化してトムを追いかけて来る。

愛する男に裏切られ、疎まれて殺される女性。
死後、男に取り憑いて怨みを晴らそうとする女性の話というのは、日本の「四谷怪談」に近い。
男の因果応報と死んだ女による勧善懲悪である。
彼女の香水の香り、彼女の歌が流れるレコード、子どもが拾った彼女の遺留品のブレスレットなど、次第に近づく霊の存在を感じさせる演出がお洒落だ。
(題名のように飛びはしないが)彼女の生首が突然はっきりと現れたり、彼女の顔が写る写真はギョッとするインパクトがある。
全ての怪現象は他の人には全く見えず、全てトムだけが見える幻影だと思わせる演出も見事だ。

ヴァイの幽霊は教会で行われたトムとメグの結婚式に乗り込んで式をブチ壊す。
恋愛のもつれとなると、東西関係なく女性の恨みは怖い。
ラストはヴァイが殺された灯台で、トムはヴァイの霊に驚き、落下死する。

ヴァイの死体がトムと同時に発見され、衆人環視のもと、死してなおヴァイの腕がトムに絡みつくエンディング。
そこまでトムを愛してたのか…?と、ヴァイの想いが切なく感じる幕切れだ。

古い映画ゆえ、特撮が稚拙なアナログなのが難点だが、1960年に製作されたとは思えない、見事な恐怖演出を堪能できる。
監督はバート・I・ゴードン。
調べてみると、巨大生物もののB級SFを得意とする監督らしい。
彼はその頭文字と作風を掛けてMr.BIG(ミスター・ビッグ)と呼ばれ、カルト・ファンの間で絶大な人気を誇る。

なるほど短い尺の中で、展開や演出に無駄が無く、上手い。
映画は派手で山場がてんこ盛りの作品ばかりが良いものだとは言い切れない。
短編の良くできたホラー小説を読んでいるような味わいがある。
職人気質を感じる作品だ。
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