櫻イミト

愛と死のエルサレムの櫻イミトのレビュー・感想・評価

愛と死のエルサレム(1971年製作の映画)
4.0
「いちご白書」(1970)の続編とも称される幻のアメリカン・ニューシネマ。主演は同作のブルース・デイヴィソンと「砂丘」(1970)のダリア・ハルプリン。監督は「ローリング ・ サンダー」のジョン・フリン。全編をエルサレムで撮影。原題「エルサレム・ファイル」。

イスラエルの首都エルサレムに留学中の米大学生デビッド(ブルース・デイヴィソン)は、対立が続くイスラエルとパレスチナ双方の若者と友だちになった。近く帰国することになり友人でパレスチナゲリラ青年リーダーのラシードを訪ね自治区で面会していると、どこからか機関銃が打ち込まれ二人は離れ離れになる。病院に運ばれたデビッドはゲリラを追っているイスラエル警察からラシードに関する情報提供を求められる。しかしラシードをかばって黙秘した結果、当面のあいだ警察の監視下に置かれることになりパスポートも一時保管される。帰国の延期を余儀なくされたデビッドは大学の遺跡発掘キャンプに参加し、そこでイスラエル人女子大生ニュリット(ダリア・ハルプリン)と仲良くなる。彼女はイスラエル学生組織のメンバーで“和平に向けてイスラエルとパレスチナの青年リーダー同士の会合を実現したいので力を貸してほしい”と頼まれる。。。

「いちご白書」では学校内で戦争反対を訴えていたデイヴィソンが、紛争真っ只中の現地で平和への道を探る姿はまさに続編的だった。同地でロケした若松孝二監督「赤軍-PFLP・世界戦争宣言」(1971)は前年の作品であり、本作も同時代のカウンター精神を反映した希少な一本と言える。

映像はゲリラ撮影だったかのように粗い。撮影はゴダール監督初期作品の殆どを担当したラウル・クタールなので即興的な撮影を狙っていたのかもしれない。その粗さがドキュメンタリー風に感じられるシーンもあった。同じくシナリオ、編集共に粗さがあり、その辺りも当時の若松監督作品を連想させて面白い。

個人的に「いちご白書」のブルース・デイヴィソンが好きなので、欠点のある本作も贔屓目に鑑賞した。ジャンルとしては青春映画であり同作から繰り返される挫折には感傷的な気分で一杯になった。しかし、現在の悲惨極まりないパレスチナ・イスラエルの状況を思うと感傷だけでは済まされない。50年以上前の本作で描かれている問題が今も変わらずに、さらに悪化していることにあらためて愕然とする。せめて本作で描かれた若者たちの和平への夢を胸に刻んでおきたい。

本作はDVDはおろかVHS化もされていない。政治的な理由とも噂されるが真偽は不明。唯一、フィンランドでのテレビ放送を録画したものが非公式に流通している。

※ダリア・ハルプリンは本作の撮影後にデニス・ホッパーと結婚し引退した。
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