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鬼婆のyのレビュー・感想・評価

鬼婆(1964年製作の映画)
4.1
静寂の中、和太鼓による突然の爆音と共に浮き上がるタイトルバック然り、静と動の振り幅が大きく緊張感がある。背の高い草むらを、戦帰りの侍が負傷した戦友を抱えながら歩き、途中で転ぶ。上から撮影するその様は、光に照らされた葉の白と、葉が倒れて窪みとなった地面が影となった黒とのコントラストが生まれる。導入から素晴らしいショットが続き目が離せない。

食うためには殺すしかない、経済が存在しない世界においては人間も動植物も何も変わらず、弱肉強食の食物連鎖の一部に過ぎない。「お前らなにをして食うとるぞよ」と何度も尋ねる男の質問に一切答えない二人の女性の沈黙が与える恐怖。戦から戻ってきた男に対し、話の合間合間に「我が息子はどうした」と詰め寄る母親の形相はまさに“鬼婆”であり、身内に対する愛と表裏一体に存在する他人への憎しみを示す。

ただ命を長らえるのみで娯楽が一切存在しないと、食べてセックスして寝ることが“生きる”ことであり、それを無意識的にも求めてしまうのは人間が動物だからだろう。小屋から小屋への全力疾走、終盤になるともはやコメディリリーフと化しているのが面白い。人間のエゴと醜さが詰まった“家族映画”としてのホラー映画だった。アリ・アスターが参考にしたというのも頷ける。
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