somiyagi

幸福(しあわせ)のsomiyagiのネタバレレビュー・内容・結末

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

監督:アニエス・ヴァルダ
公開年:1965年
製作国:フランス

本作は、順風満帆の家族像が見せる幸せと残酷さを美しい映像によって見事に映し出している。

夫のフランソワは、可愛らしい妻と二人の子供と一緒に幸せな生活を送っていた。しかし、偶然であった郵便局の女性に恋をしてしまう。彼は、純粋な気持ちで二人の女性を愛していた。不倫の女性は、彼に妻がいることを知りながら、彼が幸せでいることを願っていた。
ある日、フランソワは、妻へ別の女性と関係を持っていたことを告白する。はじめは、拗ねていた妻も、彼の幸せを想い、不倫関係にあることを受け止めたように振る舞う。
しかし、フランソワに告白された直後、妻は湖で溺死してしまう。妻を愛していたフランソワは、心の底から悲しんでいただろう。
その後、周りの助けもあり、妻の死から救われたフランソワは、不倫の女性と結婚して幸せな生活を送っていった。

本作の特徴は、
・印象派的色彩と抽象派的色彩の使い分け
・ヌーヴェル・ヴァーグ的カメラワーク
・隠喩的記号表現
の3つだと考えられる。

妻との家族生活は、田舎のノスタルジックな日々であり、花や森、湖など印象派がモチーフとした美しい風景の一部として描かれている。一方、不倫の女性との時間は、新しいモノとの出会いであり、集合住宅、ポップカラー、広告など抽象派やモダニストがモチーフとした現代的な風景の一部として描かれている。

カメラは、意図的な長回しや不自然な画角とすることで、幸せなフランソワと対象的に視聴者を不安にさせる効果を生み出している。一方、短いカットバックの連続により、妻と不倫の女性がオーバーラップする様に見せるシーンもある。

さらに、本作では、意図的に被写体が見切れたショットや、画面中央に遮蔽物が配置されるショットが用いられる。それらは、一見すると不自然な映像に見える。しかし、見切れた被写体や遮蔽物は、フランソワの状況を暗喩的に表現している。

このように、表層のストーリーを見ると、幸せに感じるものが、深く捉えていくと、不自然であり、歪んでいるのである。

私たちは、表面的な幸せの裏にある多くの歪みに目を背けて生きている。それこそが幸せの本質なのではないだろうか。そう突きつけてくる作品だった。
somiyagi

somiyagi