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座頭市二段斬りのMASHのレビュー・感想・評価

座頭市二段斬り(1965年製作の映画)
3.5
座頭市シリーズ第10作目。マンネリ期に入ったとも言われる時期ではあるが、この作品に関しては非常に楽しめる。シリーズの中でベストというわけではないが、印象深いシーンも多く、人との関わりから市の優しくも暗い内面が見えてくるという点もしっかり押さえている。殺陣にはマンネリ化がみられるが、ストーリー的には見応えのある作品。

特に変わったストーリーでもないが、その描き方が興味深い。借金の肩代わりに遊女にさせられた娘たちの悲痛の声は、市に限らず観客も憤りを覚えるだろう。だが、そこで彼ができることは人を斬ることだけなのだ。大量の人々を斬りまくって、更に黒幕への仕打ちはかなり厳しいもの。救われた人々はそんな彼を見て感謝するどころかは怯えるような表情を見せる。ここでは彼のダークヒーロー的な一面が強く描かれている。

また、ある賭博師とその娘との交流も心打つものがある。実力はあるが意気地のない父、そんな父を愛してやまない娘。彼が親分に「市の仕込み杖を盗んでこなきゃ娘を遊女にさせるぞ」と言われる部分。話を盗み聞き市の杖を盗みに行く娘。「そんなのイカサマと同じだ」と父は娘を叱るが、その瞬間自分がそういう道を歩んできたのだと思い知らされるのだ。その腕一本で渡世を生きてきた誇りが後悔へと変わってしまうのだ。

そして、その全てを分かっていながら許し「あの時心底あなたが羨ましかったんだ。あんな娘さんがいるなんてあんたは幸せ者だよ」と漏らす市その表情はどこか悲しげに笑っている。市が持つ優しさと家族というものへの隠しきれない羨望が垣間見える、心温まると同時に胸が苦しくなるシーンだ。

殺陣はいつもの大立ち回りという感じなのが少し残念。一応二段斬りらしきものもあるがおまけ程度。ライバルとの一騎打ちはとりあえずやっておいたというレベルだ。

だが、賭場のシーンは強い印象を残す。やけに広く天井も高い和室とは思えない真っ白な部屋。小さな窓から光が漏れているだけのはずなのに、なぜか全体がライトで照らされているような明るさ。このシーンだけモダニズムを意識しており、それがいつもの賭博シーンにこの映画にしかない緊迫感を与え、仕込み杖の重要性を浮き彫りにさせるている。

重要であるはずの按摩の師匠とその娘との関係性が弱いというのも気になるが、これまでとはまた違う市の感情が見えるのは興味深い。今まで以上に人を斬ることに容赦がなくなった市とそこにつきまとう罪悪感、そしてそれを捨てることが許されないのだと自分で重い鎖をつけてしまったのだ。そんな彼の人生への諦めが垣間見える。初期の作品ほどは暗くもなく、後期ほどの奇抜さもないが、市の人生に対する罪の意識が見え隠れする中々奥深い作品。
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