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恋におちてのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

恋におちて(1984年製作の映画)
3.9
『ふわっとした時代の愛すべき不倫映画』


この映画が得も言われぬ印象を残すのは、エンディングで再会を果たした二人のキスの寸前でスクリーンが静止画になって、幻のキスシーンになってしまうところ。
結局ラストシーンは疾走する列車が映し出されて終わってしまう。

つまり、この後二人の恋はいよいよ列車の如き勢いで燃え上がり、行き着くところまで突っ走ってしまうということを暗示する幕切れなんだろう。



さて時代は変わり、昨今批判を浴びることも多くなった所謂不倫について。「恋におちて」の二人も、あの後突っ走った挙げ句不幸な人生へと堕ちていったのかも知れない。いや、不幸になって当然だ。不倫などという、最低で不道徳な罪を犯して大切な人たちを傷つけているんだから。
・・・なんていう風に、モラルを基準に映画の物語を斬ってしまう人も今では珍しくないのかも知れない。

でも、あの時代はスクリーンにもTVにも不倫の物語は沢山あった。不倫の歌が流行ったりもした。
よく言えば人々はおおらかだったし、悪く言えば軽薄な世の中だった。

この変わりようは何なのだろう。



ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープが演じる恋なら、やっぱり絵になる。たとえ描かれているものが不倫という不道徳な所業であっても美しく見える。
美しい映画を見て、同時代に生きる大衆が自分たちの浮かれ具合を美化したり正当化したりすることが出来るのなら、それも優秀な(影響力のある)映画の証ということになるんじゃないだろうか。


最後のキスは描かれなかった。二人がいよいよ不倫の恋にどっぷり落ちて行くその先にある泥沼の導入部は必要ないから。恋愛の美しい部分だけを見てそこに自分たちの姿を重ね合わせることでいい気分になれるような大衆にとって「恋におちて」はやっぱり素敵な映画だったし、見つめ合ったままの寸止めキスシーンもまたきっと素敵に映ったことだろう。

いずれにせよ、映画がその時代の空気を存分に伝える役割を果たしていることだけは確かなようだ。
そんな映画がとても愛らしくて、これまでにもう何度も観てしまった。
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