レオン

ゴジラのレオンのレビュー・感想・評価

ゴジラ(1954年製作の映画)
4.7
20前後?ぐらいの若輩時に見た今作「ゴジラ」の記憶と、オヤジ世代になって見た印象は全く違っていた。
それは映画としても傑作であるが、唯一の "反" 怪獣映画 であることを認識したから・・。
ゴジラそのものをもっとリアルに描いた作品は他にもあると思うが、そのゴジラに対する "人々の反応" を一番リアルに描いたのは本作と思う。

ゴジラの特徴の一つである熱線の放射。
ほとんどのゴジラ作品でその熱線は、建物や戦車・飛行機・相手怪獣等に向けられている。
が、この第1作のワンシーンは明らかに逃げ遅れた人々に向けられ、炎で包んでしまう・・。
体が燃えるようなリアルな描写はないが、残忍なシーンだ・・。

ゴジラが町を侵攻して行くなか、母親と3人の子が逃げ遅れて壁際にへたり込んでいる。
恐ろしい怪物の姿を子に見せぬよう、子の顔を自分の体にうずめる様に抱きかかえながら、なす術もなく座り込んでいる・・。
そして子供に恐怖与えないために、諭す様に言う言葉は・・。 「もうすぐ、お父ちゃんの所へ行くのよ・。」
夫に先立たれたのか、この母親はそれまで必死に子を育てたきたはず、それが "ゴジラという災い" を前に、風前の灯火と化している。
こんな無慈悲に感じる切ないシーンが、怪獣映画にあっていいのだろうか・・。

そのゴジラの容赦ない破壊に、博士と同居していた青年は涙ながらにつぶやく・。「畜生~・・畜生~・・・・」
我が町が ”ゴジラという災難" で消滅していくのが悔しくてたまらないのである・・。

ゴジラが暴れた翌朝、町はまるで空襲にあったかのようにガレキと化していた。(おそらく東京空襲など実際に戦争を体験した当時の人にとっては、見るに堪えがたいシーンだったかもしれない。)
そして町の病院は負傷者でごった返し、通路にまで包帯を巻かれ横たわった人があふれている・・。
そのシーンはもう怪獣映画の領域をはるかにこえて、
戦争映画かニュース映像のようなリアルな描写だ・。

そして一人の母親が無言の顔に布をかぶせられ、
担架で運ばれていく・・。 「お母ちゃ~ん」と女の子が泣き叫ぶ・・。。 思わず目が潤んでしまった・・・。

戦争映画にもアクションシーンを売り物にした、"戦争アクション"というジャンルと、その無慈悲な戦闘シーンとともに、こんな事は二度とあってはならないという、メッセージを含む、"反戦映画"という対立するジャンルがある。

そう、この第1作目の「ゴジラ」は "反" 怪獣映画である。
空想映画ながら、こんな悲惨な事はあってなならぬというメッセージが伝わる・・。

それをさらに如実に表すシーンが後半に・・。
学校や会社などで、亡くなった人への追悼と、平和が訪れますようにとの希望を込めて、"鎮魂歌" のようなものが、集団で歌われているシーンまで描写さえているのである・・。

おそらく当時には怪獣映画などというジャンルはなく、
現代で言えば ディザスタームービー(大惨事・災害などのパニック映画)として、観衆は驚きと恐怖を持って、この作品を見たと思う。
だから世界的に大ヒットした。
当時子供が見ても、ただ楽しいと感じる様な"怪獣映画" であったなら、これほどの評価はされなかっただろう。

「七人の侍」等でおなじみの名優、志村喬さんをはじめ俳優陣のシリアスな演技も素晴らしい。 今で言うアイドル顔の出演者などは一人もいないところが緊張感を増し、よりリアルなものに仕上げている。

シナリオ、音楽、各シーンの描写力、俳優陣の演技、全て素晴らしい。 
他のゴジラ作品を見ても 今作を未見の方は、是非ご視聴を♪
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