YukiSano

カリスマのYukiSanoのレビュー・感想・評価

カリスマ(1999年製作の映画)
4.4
「世界の法則を回復せよ。」

冒頭、人質立て籠り事件を起こした犯人が残した謎のメッセージを受け取った藪池刑事は、その言葉に導かれるように山奥に存在する「カリスマ」とよばれる謎の木に遭遇する。

カリスマは、ただの枯れ木だが沢山の人がその木を巡り、争い合っている。森全体の栄養を吸い取って、他の木を枯らしているという怪物であるカリスマの木を、利用したい者と破壊したい者などの様々な価値観が入り交じって、主人公は独自の考え方に沿って自分なりの結論を導きだしていく。そして彼はカリスマとなる…

カリスマとは、もちろん多重メタファーとして色々な受け取りかたが可能になっている。「多」を殺してまで残すべき「個」なのか、類い希なる「個」を殺して「全体」を生かすのか。太古から問われるこの問題を樹木に置き換えることで、地球の自然環境や戦争について考察していく。

まさに黒沢清版「風の谷のナウシカ」のようだ。主人公の藪池はナウシカのように全員が生き残る道を探すと宣いながら、自身が怪物のようになっていく。

全ての人が狂っていく中で、やがてカリスマの力は別に移り、世界は戦場と化す…

自分でも書いてて訳の分からない筋書きだが、20年たって今見直すと凄く意味の分かる作品に感じた。ノストラダムス予言の全盛期1999年公開の本作は、その頃の終末思想の変化球だと思っていたが、違う。

これは21世紀そのものを予言した映画だったと感じる。全てを生かそうとすれば争いが起こり、分断が生じてしまう。

世界の法則は乱れているのか、

淘汰こそが自然なのか、

全てを生かすことが法則なのか、



答えは何も分からない…


そんな時代に突入した時、我々もまたカリスマに翻弄されていたことを知った。

今、世界は見えないトンネルに突入した。そこは未曾有の時代である。
YukiSano

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