近本光司

瀧の白糸の近本光司のレビュー・感想・評価

瀧の白糸(1933年製作の映画)
3.5
年若の男の立身出世を扶けるためにあくせく働き、しまいには没落してしまう女旅芸人という、まさに泉鏡花のメロドラマの典型。裸馬の相乗りという出逢いから、金沢の犀川にかかる橋での再会。東京で法曹をめざして勉学に励む男の学費を仕送りすべく藝は売っても身は売らずという信念を貫いていたが、見世物の興行は落ち目にあい、金の無心をする者たちにはなけなしの手持ちを渡し、ついに身を崩してしまう。そうして時が下り、入江たか子と岡田時彦が法廷で対峙するというメロドラマが悲劇的に結実する場面が最後に用意されている。ここでの二人の痛苦と斬鬼に満ちた表情がよい。このように役者の表情によってカタルシスを生み出すというやり口は、このあと溝口が長回しの技法を発見するとともに放棄された、のかもしれないが、もう少し作品を観ていかないと。
 澤登翠弁士による説明つき上映。当時はひじょうにめずらしかった女優を主体とした入江ぷろだくしょん。泉鏡花は欣也の役に、プロダクションで働いていた入江たか子の実兄を推したという。