たく

あの胸にもういちどのたくのレビュー・感想・評価

あの胸にもういちど(1968年製作の映画)
3.5
平凡な結婚に倦んだ若妻が、かつて情事に没頭した大学教授が忘れられずにバイクを走らせて会いに行く話で、単純な話だけど画面から漂う熱気とマリアンヌ・フェイスフルの体当たり演技がすごかった。彼女はミック・ジャガーの恋人だったイギリスの歌手で、全裸でライダースーツを着る姿がルパン三世の峰不二子のモデルになったというのが驚き。覚えてないけど、ゴダールの「メイド・イン・USA」が映画デビューなんだね。アラン・ドロンが珍しく脇役で、優男のレイモンとの役柄の対比が活きてた。話としては「リトル・チルドレン」や「女と男の観覧車」などのように日常に満足できない女性の気の迷いが描かれてて、ラストが「バニシング・ポイント」みたいな潔さだった。原題“The Girl On A Motorcycle”は「バイクに乗った少女」でそのまんま。

冒頭しばらくレベッカの見る妄想が流れて、チェロを弾くレイモンと鞭を振るう猛獣使いのダニエルという正反対のキャラが対比される。ここでレベッカがダニエルの鞭によって裸にされるのが彼女の欲情を表してて、レイモンとの結婚生活に飽き足らない彼女が、ダニエルにプレゼントされたバイクでドイツに住む彼に会いに行くという突飛押しもない展開。レベッカの回想シーンでダニエルとの馴れ初めが描かれて、遊び人風のダニエルが意外にも大学教授というギャップがこれまた女性にとっての魅力なんだろうね。バイクを走らせるシーンがなかなかの迫力で、レベッカが何もかも捨てて現実から逃れようとするところに狂気が漂う。随所に挟まれるサイケデリックな映像がそれを助長して、報われない愛に全速力で猛進するレベッカが最後に昇天することで、現実の向こう側に越え出た感じの幕切れだった。
たく

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