教授

コミック雑誌なんかいらない!の教授のレビュー・感想・評価

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文句なく面白かったのと。
内田裕也という表現者への見方が大きく変わった。
晩年はもう「面白おじ(い)さん」と化していて、余計に関心が遠のいてしまっていたのだけど、よくよく考えてみると、ほとんど彼の実際の性格や人柄が見えて来ない、知らないということに気付いたりもする。
世間一般で言われている通り「ロックンロール」という掛け声と、偉そうな割にはヒット曲がない、代表曲もない(音楽的功績のない)ロックンローラーであり、なんとなく胡散臭く、何かとお騒がせな人物、という印象だった。

とはいえ、その破天荒さは嫌いではなく、偉そうな感じは好きじゃなくても、少なくとも「映画俳優」としての個性はなんとなく好きだった。
そして本作を改めて鑑賞してみると、この内田裕也という表現者の衝動や、熱情、生真面目さや、社会への視点にとにかく驚かされた。

80年代の「テレビメディア」そしてワイドショーをはじめとする「芸能リポーター」を主人公に、ジャーナリズム批判という作品に仕上げていない点が、脚本家としての斬新さを生んでいる。
本作のベースにあるのは社会や、日本人のスノッブさへの純粋な怒りであり、それこそ「芸能界」のひとりとして道化を演じながら、そして当事者たちの欺瞞さえ、本人たちに演じさせながら「メディア」というものを炙り出している。

テレビの中の現実が、現実にとって代わる80年代の空気が、まさにインターネットで更に加速して肥大する「非現実」を生きる現代にはより深刻な批評に映るし、そこから東京、あるいは新宿の「社会的底辺」にも目を向けていく視点が見事。

そこにもリアルに世相をぶち込み「123便墜落事故」には御巣鷹山の尾根の空撮、山中を汗だくで登り、実際の遺体の写真を使用して、とにかくその時代を映し込もうとする。

やがて、その権化となる「強大な資本主義」の象徴として現出する「豊田商事事件」をほぼほぼそのまま描いて、主人公である内田演じる「キナメリ」は義憤に駆られる。
その点も屈折したユーモアなどではなく、まさに義憤と言えるほど純粋な怒り。
多少、「タクシードライバー」的な描き方とも感じられてミーハー的にも映るが、それでも突きつけてくる現実への熱量が高い。
そして、何より会長殺しをテレビカメラの前でやってのけた、男を演じるビートたけしの佇まいの壮絶さ。

ラストはやや、ナルシスティックに感じる分、残念な気持ちにもなるが、躊躇のない熱情の方が勝る。
むしろ「ロックンローラー」という冠よりも、映画人として、内田裕也の評価は見直されるべきかもしれないと思う。
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