ひでぞう

バルタザールどこへ行くのひでぞうのレビュー・感想・評価

バルタザールどこへ行く(1964年製作の映画)
4.7
 どのような賛辞も及ばないほどの素晴らしい映画だ。最初は、ロバをめぐる童話、いつか、幼い頃に読んだ、西洋のグリム童話のように感じるかもしれない。しかし、ここに描かれているのは、牧歌的な世界ではない。ロバのバルタザールをめぐる酷薄な世界だ。さまざまな飼い主に受け渡されるが、ムチによって、痛めつけられ、重荷を背負わされ、安息の地はどこにもない。命じられ、強いられ、過酷に扱われるが、それを甘んじて受けるしかない。そして、それは、少女マリーも同じなのだ。諦めにも似た表情で、不良少年ジェラールらを受け入れる。不良たちの世界で、マリーも腐食していき、吝嗇家の穀物商に、自らをさしだす。どこにも救いがない。そして、バルタザールが、マリーが生きる、この酷薄な世界に、私たちも生きている。
 傑作とされる映画は、時代精神をはっきりと捉えている。この映画もそうなのだ。蛇足ながら、マリーを演じたアンヌ・ヴィアゼムスキーは、その後、ゴダールの『中国女』に出演し、ゴダールと結婚することになる。そして、あの穀物商は、フランスの作家、ピエール・クロソウスキーが演じているが、彼は、あの『夢見るテレーズ』で有名なバルテェスの兄である。不思議なつながりがある。
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