櫻イミト

鉄路の白薔薇の櫻イミトのレビュー・感想・評価

鉄路の白薔薇(1922年製作の映画)
4.0
サイレント史上最高傑作の呼び声も高い100年前のフランス映画。「戦争と平和」(1919)のアベル・ガンス監督×セヴラン・マルス主演(本作撮影中に殉職)。日本で影響を受けた映画人は多く、黒澤明監督が本作に感銘を受け映画監督を目指したことでも知られている。

第1部「黒の交響楽」(鉄道関係が舞台)、第2部「白の交響楽」(雪原が舞台)の2部構成。フランスの鉄道運転士シジフが列車衝突事故の現場に駆け付けると、白薔薇の下に女児ノルマが投げ出されていた。母親を亡くしたノルマを不憫に思ったシジフは、引き取って息子のエリーと共に大切に育てた。そして15年、美しく育ったノルマを嫁に欲しいと言われたシジフは、自分の内にある禁断の愛に気付くのだった。。。

冒頭から列車事故の前衛的なモンタージュ、そして衝撃的な物語展開へとなだれ込んでいく。その表現の熱量は最後まで止むことなく圧倒された。ガンス監督の前作「戦争と平和」でも情念の深さは伝わってきたが、本作は同時に文学性も孕んでいる。フランス映画の歴史に流れる“恋愛至上主義の功罪”も込められていてまさしく源流にふさわしい名作だった。

終盤のカタツムリや雪原の輪踊りなど詩的な表現も印象に残る。禁断の愛も含めて、江戸川乱歩が絶賛したのも納得。

劇映画創成期の作品で現在日本で鑑賞できるのは主にアメリカとドイツが多い印象だが、フランスも主軸の一端だったことが本作を観て良くわかった。当時の他監督の作品も観てみたい。

※同年の映画
ドイツ「ドクトル・マブゼ」フリッツ・ラング
ドイツ「吸血鬼ノスフェラトゥ」F・Wムルナウ
アメリカ「愚なる妻」エリック・フォン・シュトロハイム
デンマーク「魔女」ベンヤミン・クリステンセン
デンマーク「むかしむかし」カール・Th・ドライヤー

※「戦艦ポチョムキン」(1925)は本作の3年後
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