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嘆きのテレーズのたくのレビュー・感想・評価

嘆きのテレーズ(1952年製作の映画)
3.7
不幸な結婚を強いられた女性が偶然のいきさつで出会ったトラック運転手と恋に堕ち、やがて運命のいたずらに巻き込まれていく話で、いかにもエミール・ゾラの原作らしく幸せになれない女をシモーニュ・シニョレが演じ切る。彼女は全然美人じゃないんだけど独特な魅力があって、翳りのある演技にだんだん惹きつけられていくんだよね。

小者で病弱な夫がちょっと滝藤賢一に似てて、彼の母が嫁をいびり倒す冒頭から薄幸感が漂う。この夫と正反対の武骨でハンサムなトラック運転手がうまいキャスティングで、彼を演じたラフ・ヴァローネは「にがい米」で売れたらしいけど観たのが昔過ぎて覚えてなかった。
中盤までがメロドラマで、最初の大胆なキスシーンの直前に黒猫のアップを一瞬入れるのが不吉な暗示みたいで印象的。
やがて密会を重ねるうちに男の方が隠し事に耐えられなくなり、この恋路の行方がいったいどうなるのかハラハラしたその頂点で一気にサスペンスに転じるのが驚く。
ラストは少々強引な展開だけど、まさに運命のいたずらってことで、冒頭と全く同じ情景をラストにもってくる円環構造。
何も知らずに終わるホテルの可愛いメイドの純真無垢さがテレーズと対比されてて上手かった。

シモーニュ・シニョレは個人的に彼女の代表作と思ってる「年上の女」が最高で、「デデという娼婦」も怖かった。
監督のマルセル・カルネは代表作「天井桟敷の人々」や「霧の波止場」「北ホテル」を大昔に観たけどほとんど覚えてなくて、「港のマリー」のジャン・ギャバンと少女の儚い恋が印象的なくらい。「天井桟敷」はいつか観直したいね。
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