OASIS

花のようなエレのOASISのネタバレレビュー・内容・結末

花のようなエレ(1971年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

南アルプスのオート・サボアへ帰省して来た少年ファブリスと、聾唖の美少女エレの恋模様を描いた映画。
監督は「バーバレラ」等のロジェ・ヴァディム。

これは哀し過ぎる。
愛を知らなかった純粋な少女に愛を与え、芽生え始めた愛を奪うという悪魔にも近い所業はまさに鬼畜。
その鬱度は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のビョークにも匹敵するほどのものであった。

南フランスにあるオート・サボワ。休暇を過ごすべく母の元へとやって来た17歳の少年ファブリスは、町で評判の美少女エレと出会い惹かれ合う。
母エレーヌとその友達フランソワが
乗り回す車に轢かれてしまった縫いぐるみの綿を必死に詰め直すエレの不憫さが凄くて、オープニングから既にもうこの後の展開を観るのが辛くなってくるような悲壮さを予感させる。
誰にでも足を開くという娼婦扱いを受ける聾唖の美少女エレの正しく花の様に美しい容姿と、あどけなさの中にも艶やかさを帯びた濡れた瞳が可憐で儚い。

帰還兵の兄ジュリアンを疎ましく思うファブリスは、家の中で過ごす事を好まず自然豊かな外の世界へと飛び出し、そこでエレと出会う。
川で遊んだり、花を摘んだり。
子供の頃に戻ったかのように純粋に遊びまわる二人だが、ふとした拍子に見せるエレの女性らしさにファブリスは胸をときめかせる。
ファブリスのイタズラによって水の中に落ち、ズブ濡れになってしまったエレが見せる艶かしさがエロスに溢れていてドキリとする。
スカートの中から僅かに覗く甘い桃源郷の誘惑に打ち勝てる者がいるだろうか?
いや居るまいて。

母エレーヌとフランソワの秘密の関係を目撃してしまったファブリスは、傷付きながらもエレの純粋さと優しさに癒され関係を深め合って行く。
自分への好意を全力で表すファブリスにエレは愛の芽生えを感じ始めていたが、快く思わないジュリアンに二人の仲は引き裂かれる。
「ほら、良く見ろ。この女は男なら誰でも股を開くぜ。花のようにな」と。
花の様に美しく、花の様に蕾を開くエレ。
何とも露悪的で悲劇的。

自分の行いを恥じてか自殺したジュリアンが居なくなり、これでまた二人で過ごせると思っていた矢先、ファブリスは愛する母の元へと帰って行く。
母への愛と恋人への愛との違いが分かる様になってしまったがゆえ、身を引くエレの報われなさにもらい泣き寸前であった。
母が息子を見つめる視線がやけに熱を帯びていたり、息子と母の距離が異様に近かったりしたので、マザコン的な関係がそこにはあるのだろう。
しかし不憫で不憫で仕方ない作品だった。
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