かーくんとしょー

紅の豚のかーくんとしょーのレビュー・感想・評価

紅の豚(1992年製作の映画)
4.7
宮崎駿監督作品の中では子ども向けでない分、若干人気が低いような感覚がある。
子どもが観ても充分楽しめるだろうが、それはドタバタ劇や飛行機の格好良さによるものと思う。

本作はよく、宮崎監督が自分の趣味を詰め込んだ娯楽作でありフェティッシュな映画と言われる。
これは製作途中で飛行機内用作品から劇場公開作品に変わったというエピソードに大きく拠るのだが、必ずしも説得力があるとは言えない。

確かに本作は宮崎監督の飛行機偏愛っぷりが活かされているし、ラストのゲンコツ勝負は一見主題性に欠けるように見える。
しかし、第一次世界大戦後を時代背景とし、「スポンサー」を背負わず飛ぶことを選ぶ飛行機乗りを描いている点からして、作者の政治的主張や志向が透けて見える作品だ。

宮崎監督は左翼的な反戦論者として一般に知られているが、一方で共同体意識は、国粋主義的にならないよう配慮しつつ、非常に大切にしている印象がある。
〈国〉というよりも、生活を完全に共にする〈村〉や〈ギルド〉的な繋がりを重視しているのだろう、本作でもファシズムへの反抗を描きつつ、一方でアメリカ人に用心棒を依頼することは「情けない」ことなのだ。

最終的に主人公とアメリカ人用心棒は、ゲンコツ勝負を通じて〈仲間〉となり、共同戦線を張る。
最早そこには〈国籍〉という客観的な要素は介在せず、同じ〈時代〉〈空気〉〈職業〉〈恋〉そして〈友情〉を共有し合ったという精神的な要素こそが重視されているようだ。
結末で明かされる後日談でも、アメリカ人用心棒はアメリカに帰って俳優となり、今では時折ヒロインに手紙が来るだけとのことだが、彼もマフィアたちも主人公たちも思い出という繋がりを大切に抱いて生きていることは間違いないだろう。

本作では〈恋〉の要素が主題の近くにあるため、深い主題とは無縁かのように安易に捉えられがちだが、上記のように見てくると〈恋〉も重要なテーマであることがわかる。
飛行艇乗りみんなが〈恋〉をしたジーナを中心としたコミュニティー、そして彼女が経営するホテルは、戦いのない〈聖域〉として描かれている。

冒険活劇というファンタジーではなく、身近な〈恋〉と現実にあったファシズムを対比させることで、宮崎監督の主義主張はより実感的なレベルに引き下げられている。
単純な恋とダンディズムの物語として受け取ってしまうには余りに惜しい作品であり、(主義主張に賛同するかどうかは個人の自由だが、)大人の鑑賞者にはそのあたりまで視野を広げて味わっていただきたい作品だ。

written by K.
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