“ひとりぼっち おそれずに 生きようと 夢みてた……”
耳をすませば、今も聞こえてくる音楽、口ずさむ「カントリーロード」。そしてよみがえる“コンクリートロード”、つまり僕らの故郷の風景。
帰りたい、帰れない思い出が巡る。
雨のにおい、木漏れ日の煌めき、陽光の温もり、髪をなびかせる風の切なさ。
始業のチャイム、ひぐらしの鳴く午後、駅前の喧騒、夕食どきの野球中継、姉妹の二段ベッド。
何世代に渡るだろうか、この一作が、あるいはこの一曲でどれだけの少年少女の青春が彩られたことだろう。
「人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ」
と、夢を生きることの現実。誰も教えてくれなかった本当のことを、初めて言葉にして響かせてくれたのもこの映画だったっけ。
“心なしか歩調が早くなっていく♬”
と、不安や孤独はスタッカートで駆け抜けるようにとも歌ってくれていた。
それに、誰もが雫や聖司くんに心を寄せるばかりでもないから。
確かめるほどの才能もなければ、磨くべき原石も見つけられない。自問自答することもなければろくに自己主張もできない。ただ何となく、それなりに一生懸命に、恋と部活動で青春を浪費するありふれた中学生は、杉村と夕子と、その淡い恋のゆくえにこそ自分の物語を見たかもしれない。
文化系の同級生たちの想像力豊かな世界観、「物語」が共にある人生に憧れと劣等感を抱きながら……と懐古もする。
今、改めて見て心惹かれるのは、『夢と狂気の王国』で宮さんがマミちゃんにささやいた言葉をも想起させるセリフたち。
「飛ぼう!上昇気流を使うんだ」
「行こう!おそれずに。午後の気流が乱れるとき、星にも手が届こう!」
そう、そこの配管をよじ登って、屋根を伝ってあのビルに飛び移って、電線の上を歩けたら、あのブロック塀の上を走り抜けたら……遥か向こう側まで届きそうな気がするんですよ。
つまんない街もとんでもない映画の舞台になるんですよ。
行けんじゃないかな……ってね。
「ま、ロマンチックですことぉ!」