極楽蝶

サンダカン八番娼館 望郷の極楽蝶のレビュー・感想・評価

サンダカン八番娼館 望郷(1974年製作の映画)
5.0
山崎朋子の名著に魂と情念を与えた傑作。主役の田中絹代演じるサキさんの女一代記で晩年のサキさん(若いころは高橋洋子)は菩薩のように神々しい!! そうそうおキクさん役の水の江瀧子さんも姉御の凄みがあって良いですねぇ。
ラスト近くでサキさんと圭子(栗原小巻)が最後の晩に語り合うシーンで、圭子がサキさんになぜ私がどんな人間か知りたくなかったと質問に「誰よりも私がそのことを知りたかった。でも、人にはそれぞれ事情がある。言わないということは言えない事情があるんだから本人が話すまで聞かなかった」(正確な科白ではないけどこんな内容)という科白は、何度見ても涙してしまう。相当な経験をしてこなければ達観できない感情だと思う。もう一つ心象に残るのは、ラストでサンダカンのジャングルに眠るからゆきさん達の墓を訪ねると、墓が日本に背を向けているところ。サキさんがサンダカンで世話になったおキクさんの「日本に戻ってはいけない」という忠告そのもの。
視点は変わるけれども、この映画は戦前の日本の豊かさの実態の一面を感じることができるし、弱い者たちが国の都合で運命を翻弄される様も見える。そして、差別の根源はここでも弱者の住むそこにあるということが分かると思う。
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