半兵衛

黄線地帯(イエローライン)の半兵衛のレビュー・感想・評価

3.5
殺し屋・新聞記者・殺し屋に捕らわれた記者の恋人である踊り子、その三者に加えて様々な脇役が絡み売春組織のある神戸へと結び付いていく前半はテンポのよさや靴やメッセージを書いたお札などアイテムの使い方の巧さも相まって極上の娯楽映画に仕上がっているのに、後半急にテンションが落ちて最後の10分をドタバタしながら終わらせるという残念な作品に。

それでも殺し屋に扮する若い天知茂のスーツがよく似合う陰のあるシャープな格好よさ(もっとも本人は人を殺す悪党役は嫌だったらしく、後年『恐喝こそわが人生』で殺し屋役でオファーがきたとき断っている)やグラマラスでキュートで気立てがいいという裏社会を生きてきた天知が心をほだされて惚れてしまうのも納得のヒロインを生き生きと演じる三原葉子といったキャストの熱演や、新東宝特有のセットの狭さを生かした広さはないけどごみごみした裏道の匂いが漂ってくる神戸の街並みのセット、スクリーンの奥行きを生かしたカメラワークなどが光っており新東宝作品のなかでも出来栄えのよい佳作に。

殺し屋が泊まるホテルがいかにも裏町にありそう、そんなホテルから見下ろす街並みは作り込まれたセットの素晴らしさも相まって80年代の洋画やアジア映画に出てきそうなビジュアルに仕上がっていて圧巻。そんな雨降るうらぶれた町を酔っ払った詩人が詩を呟きながらフラフラと彷徨う場面は裏の世界で生きる人間のやりきれなさや苦しさが伝わってきて屈指の名シーンになっている。

元ネタである『拳銃貸します』そのまんまの結末にちょっと苦笑いするが、それでも表に出れない人間の悲哀とどうしようもなさがスパークするエンディングで終わらせるところに『網走番外地』などアウトローたちの生きざま死にざまに共感して描いてきた石井輝男監督のこだわりを感じて悪くない。

フラメンコギターならではの音を生かしてダークサイドにいる人間たちのドラマを寂しく彩る渡辺宙明のスコアも最高、ちなみにギターの音色で主人公の悲しい境遇を浮かび上がらせるという手法は後年の『人造人間キカイダー』で開花することになる。
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