ヒロ

喜劇 女は男のふるさとヨのヒロのレビュー・感想・評価

喜劇 女は男のふるさとヨ(1971年製作の映画)
5.0
聞き馴染みのあるノスタルジックな山本直純の音楽と軽快で大胆それでいて繊細な杉原よ志のリズミカルなカッティングで語られる今作は「港町ブルース」がよく似合うまさに”女もつらいよ”であり、歯の生え揃わない赤子からすべてが抜け落ちた徘徊老人まで老若男女ありとあらゆる人間に対して向けられる平等で優しい眼差し、かと思えばその喜劇を際立たせるためすぐ後ろからえげつない悲劇で尾行する、この世のすべてをそこに置いてきたとどこぞのだれかさんが言ってたベタなことを書きたくなるぐらいに濃密な90分は全秒眼福。盛りの学生が仕掛けた痴漢を大らかに受け入れる男勝りでチャキチャキした笠子が自らのために見返りを求めない無償の愛を捧げ続ける照夫の秘密を知ったときに見せる女の一面はNHKしか流れないテレビから溢れてくる君が代の正当な使い方を教えてくれるし、山形から大学の合格発表のために上京しまんまと落っこちた学生が参宮橋からまさに飛び降りんとするときに星子が咄嗟に差し出した無垢な身体をしたり顔で否定する警察に対して女将が唱える至極真っ当な説法はのちの日活ロマンポルノ裁判へのクリティカルアンサーとなり引いてはこの救いようの無い現代にこそ通づるありがたきお言葉、、、もはや書き出すと好きなシーンが止まらないのでこの辺にしておくが、僕の中でフェリーニの上位互換であった森崎東が死んでしまったんだなと、そうかまた偉大な人が逝ってしまったんだなと。腹抱えながら笑ってるのになぜか涙が止まらない、これがこれこそが本物の喜劇だ。

2020-46
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