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スーパー!のはのレビュー・感想・評価

スーパー!(2010年製作の映画)
5.0
初めて観た中2の頃から定期的に見直している傑作ヴィジランテ映画。当時は年齢的に劇場鑑賞が叶わず悔しい思いをしていたが、今年の3月に念願叶って新文芸坐のオールナイトで劇場鑑賞出来たのが夢のよう。今回はFilmarksのベストムービー欄に登録する為の再鑑賞。

主人公のフランクは自身に強くコンプレックスを持っている。醜い顔、サエない性格…。心を癒そうとウサギを買いに行っても「僕が相手じゃかわいそうだ」と購入を渋る。そんな彼だから、妻のサラへの執着は激しい。ドラッグディーラーのジョックに彼女を奪われると、この世の終わりとばかりに絶望する。そんな時、彼は神からの啓示を受ける。そして真紅の衣装に身を包み、クリムゾン・ボルトとしてレンチ片手に街のパトロールを始めることになる。

神の啓示という後ろ盾があるから、彼は躊躇わずに正義を遂行する。街へ出て、悪党がいればブチのめす。この一連のシーンはカラフルなテロップで彩られ、BGMもロックなので、非常にポップな印象を受ける。"『キック・アス』的"と表現しても良いかもしれない。やってる行為や言ってる事は正当性のあるものなので、観ていてこっちもスッキリする。

しかし、中盤から演出がガラリと変わる。映画館の前で行列に並ぶフランク。すると前の方で横入りをする男女を発見。「ちゃんと後ろに並べ」と注意しても全く相手にされない。頭にきたフランクは車に戻り、クリムゾン・ボルトになって帰ってくる。そして、当該の男女にパイプレンチで襲いかかる。このシーンにはポップな色付けは為されてない。手ブレの多いカメラで、ただただ生々しく暴力を切り取っている。先のキックアス的シーンではあまり写していなかった傷口や血も露骨に見せ、先程までのような爽快感・カタルシスを観客に与えないような、むしろ一歩引かせるような演出になっている。

インタビューでジェームズ・ガン監督はこの映画のテーマを「道徳性」だと述べている。フランクは行列への横入りという比較的小さな罪を犯した者にさえ、パイプレンチで頭をカチ割るという過剰な制裁を与える。しかしながら、彼は道徳性に欠けたサイコ野郎だというわけではない。相棒のリビーが置物で罪人の頭をカチ割ろうとするのを制止する程度の道徳性は持ち合わせている。罪人といっても車にカギで引っかき傷をつけただけなので前述の横入りと罪の大きさは同じ程度なのだが、客観的に見ればフランクもそれが過剰制裁だと解る。

"正義とは何か"は最早使い古されたテーマだと言っていいほど繰り返し描かれてきた。結局主観的なものでしかなくて、絶対的な正義なんて存在しないよなぁ、とも思う。しかし映画のラスト、フランクが泣き叫びながら「横入りは悪だ!薬物売買は悪だ!児童売春は悪だ!それは遥か昔に定められた不変の掟だ!」と吠え、悪党を滅多刺しにする様は、強く印象に残る。

音楽使いも最高。全編通して幾度か流れる"Two Perfect Moments"の物悲しげなメロディは、聴くたびにフランクの人生を思い出して泣きそうになる。オープニングの"Calling All Destroyers"は言わずもがな、リビーがフランクに迫るシーンで流れる"Let your body decide"も印象的。

役者陣の魅力についてまで書いているとキリがない(特にベーコン)ので、それは割愛。

全ての人にオススメしたい…と言いたいところだけど、過激な表現が多めなのでそこだけは注意していただきたい。
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