トランティニャン

トランスアメリカのトランティニャンのレビュー・感想・評価

トランスアメリカ(2005年製作の映画)
4.5
アメリカ映画の専売特許、それはロードムービー。
「東から西へ」というフロンティア精神を今でも心の礎とするアメリカにとって、主人公が心の隙間を埋める何かを求めて車を動かし、旅を通じて自己実現を図ろうとするロードムービーは、極めてアメリカ的なジャンルだからだ。
また、電車や飛行機といった公共交通とは異なり、車は「孤」を助長する移動手段であり、それがこの国の大勢を占めているという事情もある。

当初テーマが性同一性障害なのかと思い、『ボーイズ・ドント・クライ』のようにシリアスな作品なのかと身構えていたが、脚本も手がけた新人監督は、そんな難しく先鋭的なテーマを、アメリカ映画のお家芸・ロードムービーの枠に巧みにはめ込むことで、観客の同情ではなく、普遍的な共感を集めることに成功している。
野放図な息子とのコミカルかつもどかしいやり取りや、行く先々で起こる、ブリーならではの珍道中を散りばめて温かい笑いや涙を誘い、その中にブリーと息子が自己を見つめ直す過程がしっかり織り込まれています。

『イージーライダー』の昔から、ロードムービーの主役というのはいつだってアウトサイダーでした。
冒頭「埋没こそ理想」とナレーションが入るように、男でも、そして女でもないブリーの存在は、現代におけるアウトサイダーそのもの。と、久々にロードムービーでしか成し得ない物語を味わえる作品だった。
ブリー親子の眼前に広がる荒涼とした光景だったり、流れるトラディショナルなカントリーだったり、出会うネイティヴアメリカンが印象的だったように、現在の混迷を原点が浄化し、原点の過ちを現在が正す。

アメリカ人はロードムービーを作り続けることで、その果てしなく伸びた一本道を守り続けている。