からげんき

ストーカーのからげんきのレビュー・感想・評価

ストーカー(1979年製作の映画)
4.8
大好物すぎる
『ソラリス』が大好きなので見ねばと思っていたけど、見たら見たでやっぱり自分の大好物だった。

「ゾーン」という未知の場所に、願いを叶えてくれる「部屋」があるらしく、そこを目指して文系男と理系男、そして案内人の「ストーカー」が冒険する話。
ただ危険な目に合うこともほとんどなく
3人でたらたら歩きながら人生観や哲学的な話をブツブツ言ってる雰囲気がもう好き

文系男と理系男は相変わらずキャラが立っていて、特に文系の方は身勝手な行動が多いけど憎めないやつなんです。
終盤の行動でそれぞれの信条が具現化したかのような行動を取るのも面白い。


そして眠くなるのはもはやお約束なのですが、自分はこの眠くなる雰囲気も好き。

カットを多用せずにゆっくり時間が流れる映画。
構図がキマってるのでそれだけで美しさを感じさせる。
そこに挟まれる詩的で哲学的な会話や語りはもはや絶品であります。
時間の流れがゆっくりしてるってことは、映画の中により入り込めるという利点があると思う。自分は映画内の人物と時間さえも共有できるのは得難いものだと思う。


この映画は基本的に会話劇なのですが
当然ながらそこはタルコフスキーなので
会話の内容が繊細で濃い!
実はこれも『ソラリス』と同じような話で
探求すればするほど自身の内面と向き合わされる話でした。

ただソラリスより絵柄は地味なので、眠くなるのは相変わらず。

眠くなるけど響くものはあると思う。

絶望と希望

欲望と自尊心

人生観 

難解ではない。
分かろうとすれば分かる。

弱いことが生きる強さになる。
堅く強いものは死んでいる。

そしてタルコフスキーお得意のあらゆる水の描写が素晴らしい。

町並みを映す水溜りや
黒く濁った汚い水溜り

劇中で語られる人の心や生きる力を感じさせるのは勿論だけど、

ゾーンを進むに連れて汚い水描写が増えていく

人の心だとするなら雑念や欲望といったものを感じさせ

終盤の爆弾と魚のカットはもはや人間の業ではないでしょうか。

今作はキレイなだけじゃない、汚い水がたくさんでてくる。

劇中で語られる人間の素晴らしさと汚さと密接にリンクしているようです。

自分の願いを叶えてくれる『部屋』の前での自尊心との葛藤は、苦しみの中で足掻くことそのものに価値があるのではないかという問いかけを投げかけてくる。

これほどまでに人間の内面と向き合っている映画はそうないのではないでしょうか。

思考に語りかけてくるかのような、叙情的で繊細で美しい傑作です。

自分は個人的に心の水面に波を立てたくないタイプの人間なのですが、この映画によって起こる波はやぶさかではないと思った。
からげんき

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