えいこ

タクシードライバーのえいこのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.2
漠然とした不安と孤独。帰還後のPTSD。眠れない夜をやり過ごすための仕事。
人に上手く自分を開けない不器用さと、気になれば執拗に見つめ続けるアンバランスさが、見ている者の不安を掻き立てる。

人の良さそうな笑顔から後半の狂気は想像ができない。トラヴィスの内面を全く見せず語らずに、後半に突入するのは、ロバート・デ・ニーロの演技力あってこそ。スイッチが入ってからの変貌ぶりには釘付け。

「ジョーカー」のアーサーとトラヴィスの物語には重なる部分もあるが、アーサーに比べれば周りの人々がまだ救い。なのに、孤独や焦燥感が、トラヴィスを独りよがりの正義に追い立てていく。何か大きなことを…というトラヴィスの思いのきっかけはいずれも女性。それは、結果的に、であり、自分を納得させる理由ができれば、何でもよかったのだ。

ラストは、社会的にはハッピーエンドのはずなのに、個人的には目に見える幸せをもたらさない矛盾。トラヴィスは誰のために命を賭けたのだろうか。ただ命を賭けるために命を賭け、その過程だけが、トラヴィスにとって生き活きとした時間であった。デ・ニーロの演技はそれを実に鮮やかに表現する。

夜の街に流れるネオンの灯りと音楽が素晴らしく、象徴的な事物のクローズアップ、天井からの垂直ショット、構図も大胆かつ無駄がない。虚しい物語の後味は苦いが、音楽と映像の素晴らしさは、きっとまた味わいたいと思うに違いない。
えいこ

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