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イン・ザ・スープのたのネタバレレビュー・内容・結末

イン・ザ・スープ(1992年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

「ピート・スモールズは死んだ!」の監督か。
言われてみれば同じ監督って感じがするなと思う。
サラッとキャスト側でジム・ジャームッシュが出てきた時はびっくりした。出演時間はそんなに長くないけど、インパクトは抜群。

こういう、難解ってわけじゃないけど考える余地がたっぷりあって、見終わったあともドクドクと自分の脈を感じるように余韻と世界観に浸れる映画大好き。
結局ジョーはなんだったんだろう。仕事も私生活も嘘の多いジョーにとって、映画は本当に作る気があったのかな。それが謎なまま終わるからこの映画はこんなに素敵なのかもしれない。

ジョーの自由奔放で自分の思うがままに行動し、相手にどう思われてもあんまり気にしない感じとか、弟が死んだ後もかなり冷静なところとか、結構怖いよね。弟は「兄は司祭になりたかったくらい心が広いが、俺は非情だ」って言ってたけど、本当に非情だったのはジョーの方なんじゃないかな。周りがどうでもいいからこそ、心が広くいつもご機嫌で何を言われても暖簾に腕押し状態だったんじゃないかな。まるで空っぽ。こういう掴みどころのない人間って、空洞みたいで怖い。けど魅力的。

ブシェミが主演の映画。もうそれだけで嬉しい。
白黒だとブシェミの大きくて特徴的な目元が際立っていいね。もうとっくにカラーが普及してる時代なのに、あえて白黒で撮る技法が好き。色という情報が無くなる事で映像への没入感が高まる気がするし、なによりどこを切り取っても画として美しい。時代背景がちょっと分かりにくくなるのもいい。
裸の真実はちょっとサービスショット過ぎてファンには刺激が強かったけど、さすが元消防士って感じの無駄のない体が眩しかった。
ダンスの練習をしてるブシェミ可愛かったね。
チャチャチャのリズムに乗り切れない不器用さと、恥をかかないように練習する真面目さ、それを結局活かしきれない不憫さに彼の愛おしさが詰まっている。ブシェミは不憫であるほど輝くので。
色々巻き込まれるものの、なんやかんやと流されてジョーにも周りの人にもあまり強く出られない気弱さも好き。

映画はどうなったのかな。
恋愛映画みたいな何百作と作られてきた映画ではなく、ニーチェとドストエフスキーが出てくるような難解な映画を作りたかった彼だけど、最後はジョーに捧ぐラブストーリーを撮ろうと決意していた。長い間練り続けてきた彼のこだわりを良くも悪くも変えたジョーってすごい。最後の死に方もかっこよかった。

アルドルフォの映画はあえて白黒で撮り、音楽も楽器が出てくる場面でなければ使わない。この映画と同じ。アルドルフォにはロックウェルが強く投影されているんだろうか。
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