きくそ

ジェイコブス・ラダーのきくそのレビュー・感想・評価

ジェイコブス・ラダー(1990年製作の映画)
3.8
ベトナム戦争帰還兵の主人公が何者かに命を狙われ夢と現の境で次第に精神を蝕まれていくサイコサスペンスです。
映画通に人気という印象の本作、恥ずかしながら全く知らず、有名ホラーを見ようというテンションで見たのですがそういう意味では期待を裏切られました。ベトナム戦争で九死に一生を得た記憶と幸せな結婚生活と自暴自棄な帰還後が混線する展開で、さらに戦争前後のストーリーはどちらが夢が現実か分からない上に発熱やら精神異常やら戦争中の薬物実験やらといういよいよ何を信じて見ればいいのか分からない状況になります。これでホラーだと思いこんでいつジャンプスケアーが来るものかと待っているのですから訳が分からないのです。
さて、見つつ、ラダーというと段階という訳が思い浮かびましたので、実のところ現実はまだベトナムにあり、ストレス値の段階が上がると支離滅裂な妄想を深めていく的な何かそんな話かなと予想しながら見ておりました。ラダーの本当の訳は単純に階段でして、ストーリーも思わせぶりなシーンをばら撒きまくっておきながら実に単純明快な話でありました。しかし極限の人生とは、人の脳と記憶の見せるところとは実際このようであるかもしれないと思わせる不思議な映画でした。ベトナム戦争のPTSDや違法人体実験(の疑惑)を扱った反戦映画という側面もありますが、深追いしすぎずウェットで道徳的なシーンを極力出さずに戦争の無常を感じさせられて好みでした。寂寞感とズシリとした視聴感を同時に味わえる良作です。
きくそ

きくそ