midored

過去のない男のmidoredのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
5.0
外で寝ていただけなのに殴り殺されるという、とても恐ろしいオープニングからは予想のつかないユーモアに満ちた映画でした。

倒れた主人公のブーツを持ってゆくお爺さんからしてブラックユーモアです。最底辺にいる人たちは、泣きっ面に蜂じゃないけど、どこまでも食い物にされるのは世界共通の悲しいリアル。

それが冒頭からしばらく続きます。あてがわれたコンテナは凍死するような事故物件だし、貸してもらったバケツには盛大に穴があいてて、ほぼシャワーヘッドです。一時が万事その調子で、いちいち哀しいやらおかしいやら、どんどん世界に引き込まれました。

救世軍で働くヒロインの薄幸ぶりも味わい深い。寮のドアは隙間が空きすぎだし、好きな音楽をかけてもちっともリラックスしてないのが泣けました。あの場面だけで語られない彼女の過去が語られてました。

そんなイルマと名無し男のロマンスは、ぎこちなくもストレートで、不毛の地に咲く野花のようでした。

敗者3部作の2作目ということで、社会から見捨てられた人たちを描いていながら、ちゃんとユーモアも救いもあります。社会問題の提起と娯楽の提供、両方を実現してる作品だと思います。
midored

midored