りっく

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬のりっくのレビュー・感想・評価

4.0
ヒスパニック系の不法移民問題を背景にした本作は、偏見と誤解が渦巻き人を分けた死臭漂う国境地帯=ボーダーを越えた友情と贖罪の物語である。

メルキアデスエストラーダという謎の人物の死体。そんな彼と生前友情を交わしていたカウボーイと、誤って彼を銃殺してしまった国境警備隊、そして死体という異様な組み合わせのロードムービーであり、その奇妙な絵面は「スイスアーミーマン」に通ずるものがある。

解体された時制を3度の埋葬をチャプター分けして進行させ視点を変えることで、決して言葉や表情に感情を表すことのない西部男や、そんな男たちの世界に生きている女たちの、メランコリックな心象の向こう側に人間の孤独を浮かび上がらせることに成功している。

国境を超えた根拠なき安らぎをもたらす友情。この根拠のなさをひたすら信じて行動することの意味、そしてそれが現代における人間性の回復、その可能性について強く考えさせる寓話である。
りっく

りっく