りっくさんの映画レビュー・感想・評価

りっく

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そして人生はつづく(1992年製作の映画)

4.0

前作「友だちのうちはどこ?」は終始嘘をつかない少年のロードムービーだったが、本作は冒頭より嘘をつくことで切り拓かれていくロードムービーになっているのが面白い。

そもそも映画自体が嘘をつく媒体であるこ
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ゴジラxコング 新たなる帝国(2024年製作の映画)

3.8

東宝チャンピオンまつりの精神を受け継ぎ、ビッグバジェットで怪獣大乱闘を実現させてみせた快作。世界各所に怪獣が出現して最終的に拳を相交える展開は「怪獣総進撃」に近いが、様々な世界のレイヤーでそれぞれの物>>続きを読む

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)

4.2

ジグザグ道を歩く少年の彷徨を通して、イランの風景やそこに生きる人々の生活や息吹までも魅力的に伝わってくる。子どもたちの素朴な演技も自然で愛らしく、まともに取り合ってくれない大人を見つめる瞳は不憫でもあ>>続きを読む

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)

4.2

複数のジャンル映画的な要素を組み合わせながらも、アイというキャラクターの健気さとロボット三原則をベースにした狂気や暴走、AIが日常に組み込まれた近未来の生活様式と田舎の風景といった相反するものをきちん>>続きを読む

マルセル 靴をはいた小さな貝(2021年製作の映画)

3.6

マルセルという貝のキャラクターを主人公に据えたミニマムな世界からの冒険譚のような物語だと思いきや、彼を一貫して「被写体」として描くことで、彼を好奇な目で見るメディアやSNSといった現代社会とファンタジ>>続きを読む

わたしの見ている世界が全て(2022年製作の映画)

4.1

自らが成長・挑戦できる環境下で成果を出して周囲に認められれば幸せ。そんな確固たる価値観を持っているがゆえに、相手の気持ちに寄り添うことなく、不必要な人間を見下し切り捨てようとする女性が、根本的な性格は>>続きを読む

麻希のいる世界(2022年製作の映画)

3.7

基本的には高校生の三角関係と彼らの親までの狭い射程で物語は展開する。その中の人間同士の関係性や、彼らと社会や外部との関わり合いは、常に緊張感が漲っている。それを塩田明彦は的確なカットの積み重ねによって>>続きを読む

黄龍の村(2021年製作の映画)

3.2

リア充の陽キャが山奥で惨殺されるアメリカ産ホラーと、禍々しい田舎の因習に巻き込まれる国産ホラーを混ぜ合わせた前半から坂元監督お得意の身体能力の高い俳優を生かした陰キャ覚醒のリベンジアクションへと変貌を>>続きを読む

劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室(2023年製作の映画)

3.8

序盤の30分でドラマ未見の一見さんにもキャラクターと世界観の最低限の情報は伝えつつ、横浜の高層ビル火災にその他のすべての尺を注ぎ込んだ潔のよい作りに好感が持てる。

まるで「タワーリング・インフェルノ
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アナログ(2023年製作の映画)

3.8

店に電話すればいいじゃんと何度も思ったが、特にコロナ禍を経て人と人との距離や関わりが見直される中、本作で描かれるものを信じたくなるだけの真摯さがある。

自分の大事なものや場所や時間を自己完結させるの
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終身犯(1962年製作の映画)

4.2

終身犯が牢獄でカナリアのブリーダーになる意外な展開に驚くが、天才的な頭脳を牢獄に閉じ込めていることを世間に知られるのを恐れる刑務所長、息子をずっと牢獄に閉じ込めることで監視独占したい母親など、物理的精>>続きを読む

ジャン・ルノワールのトニ(1935年製作の映画)

3.4

フランスにやって来るイタリア人の出稼ぎ労働の実態を題材にし、人種のるつぼと化す環境下でのメロドラマと、愛する女性の罪を背負って静かに死んでいく男の生き様が、過度にセンチメンタルでヒロイックに描かれるの>>続きを読む

大いなる幻影(1937年製作の映画)

4.2

収容所というステージに、国籍や人種を超えて邂逅する人間と人間。貴族出身であるところから会話が弾み、友情に結ばれていく大尉と捕虜収容所長。そして没落する階級を認識する彼らの犠牲によって、労働者階級出身の>>続きを読む

にんじん(1932年製作の映画)

4.2

無口なゆえに冷え切った家庭を作った父親にも非があるように見えるが、最終的に母親ひとりに幼い息子の自殺未遂の原因があり、そんな母親は嫌な奴という共通認識により父と息子が連帯する着地は男性目線での物語だと>>続きを読む

カード・カウンター(2021年製作の映画)

4.0

ギャンブラーでありながらも、勝ち負けの快楽に身を浸すことも、身を堕とすこともなく、かといってプロフェッショナリズムを感じるわけでもなく、ただ無気力で同じルーティーンを繰り返すジェイソン・アイザックス演>>続きを読む

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)

3.4

何重もの入れ子構造になっている複雑難儀な一作だが、いつものウェス・アンダーソン作品よりも俳優の演技の自由度は高い印象を受ける。正面や真横からの絵画的なキメ画は相変わらず炸裂するものの、駒のように俳優を>>続きを読む

処刑人(1999年製作の映画)

3.5

電波系無差別殺人や掟破りの構成、強引すぎる展開などありつつも、ワイルドなパワーと面白さ、やんちゃな美形兄弟の色気とカッコよさ、そして何と言ってもウィレム・デフォー演じるエフビーアイ特別捜査官の変態的な>>続きを読む

真珠の耳飾りの少女(2003年製作の映画)

3.7

スカーレット・ヨハンソンが「真珠の耳飾りの少女」としてキャンバスに固定化されたとき。あるいは妻に言い寄られたフェルメールが描いていた「真珠の耳飾りの少女」を見せようとして、そこにスカーレット・ヨハンソ>>続きを読む

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)

3.8

90分という尺のうえに章立ての構成になっており、物語も人間ドラマや台詞を極力まで削ぎ落とし、シチュエーションにバリエーションをつけながら不死身の男とナチスとの攻防に焦点を絞ることで非常に見やすい娯楽作>>続きを読む

望郷(1937年製作の映画)

3.6

アルジェのカスバの街並みが素晴らしい。高低差のある狭く複雑に入り組んだ無数の路地に、所狭しと建ち並ぶ建物の数々。そこで生きる人間たちが息づく営みと、その営みに紛れて息をひそめるお尋ね者。部下や仲間に囲>>続きを読む

1秒先の彼(2023年製作の映画)

3.2

人よりも先に行動してしまう男性と、人よりも遅れて行動してしまう女性が、ある数日の出来事をそれぞれの視点から物語ることで観客は互いの接点や想いを知り、そして時を経て印象的な名前を呼ぶ=互いの正体を認識す>>続きを読む

ティル(2022年製作の映画)

4.2

黒人のルーツである南部とは意識的に距離を置き、シカゴで家族と仕事だけの世界の幸せを死守してきた黒人女性に降りかかる悲劇を契機に、黒人であることを突きつけられアイデンティティが覚醒するまでを、人間として>>続きを読む

自由を我等に 4K デジタル・リマスター版(1931年製作の映画)

3.7

冒頭よりベルトコンベア式の工場で出来上がる商品と労働者を流麗なカメラワークで映し出す。画一的かつ革新的な超モダンな工場のデザインと、ルネ・クレール作品の最大の魅力であるカメラと人物の配置や動線の見事さ>>続きを読む

ル・ミリオン 4K デジタル・リマスター版(1931年製作の映画)

3.5

宝くじを入れた上着と男を追いかけて、笑いとサスペンスに満ちた追跡が始まり、周囲の人間を巻き込んで拡大していく。もう後に引けない状況の人間たちが文字通り動き回るさまを、カオスになる手前できっちり動線を決>>続きを読む

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)

3.6

主題歌がパスカルズということもあり、晩年の大林宣彦作品『この空の花』『野のなななのか』のような趣を感じる。劇中で登場する妻の遺骨を毎年花火に混ぜて打ち上げたと言う笹野高史(両作品ともタクシー運転手とし>>続きを読む

エスパー魔美 星空のダンシングドール(1988年製作の映画)

4.2

上りのエスカレーターに乗る足元を映す画ではじまるところで、原恵一ファンとしては『クレしん オトナ帝国の逆襲』と全くの同一ショットだと心躍らせてしまうが、子供向け劇場中編のなかに、原恵一ならではの悪役や>>続きを読む

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)

3.8

気高く我慢強く美しい、あるいは暴力的で粗野であるというイメージが意識的/無意識的にまとわりついてしまうフィクションにおける黒人のイメージが独り歩きして雪だるま式に暴走していく茶番劇の滑稽さが面白い。堅>>続きを読む

アニエスによるヴァルダ(2019年製作の映画)

4.1

アニエス・ヴァルダは映画製作において重要なのは「ひらめき」と「創造」と「共有」だと言う。何かを撮りたいという衝動や欲求があり、そのためにはどのようなスタイルで物語るのが最善かを選択し、その映画を独りよ>>続きを読む

ダゲール街の人々(1976年製作の映画)

4.0

パリのダゲール街で商いをしている人々のステレオタイプな日常と彼らの肖像を描いたドキュメンタリーであるが、まずは劇映画同様にアニエス・ヴァルダという映画作家の構成・編集の巧さに感服する。

決して華やか
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