櫻イミト

ヴィオレット・ノジエールの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ヴィオレット・ノジエール(1978年製作の映画)
4.0
イザベル・ユペール(当時25歳)がシャブロル監督と初めて組みカンヌ女優賞に輝いた出世作。1930年代フランスで父親を毒殺した18歳の娘ヴィオレット・ノジエールの実話犯罪映画。柳下毅一郎さんのミステリー映画オールタイムベスト1。

1933年パリ。18歳のヴィオレット(イザベル・ユペール)は鉄道員の父バティスト、母ジェルメーヌ(ステファン・オードラン)と狭いアパートで暮らしていた。家ではイイ子にしていたが、夜は着飾ってカルティエ・ラタンで遊びまわるヴィオレット。やがて売春で得た金を恋人の法学生ジャンに貢ぎだす。そして、梅毒に感染したことをきっかけに両親への殺意が。。。

久々にシャブロル監督作を鑑賞。やはり面白かった。犯罪少女の姿を肯定も否定もせず、社会的背景を織り込みながらクールに描き出している。その姿は新宿あたりにたむろするパパ活女子と何ら変わりがなく、時代を超えた普遍性さえ感じさせる。

イザベル・ユペール出演作はあまり観ていないのだが本作での存在感は実に好みだった。きつめのメイクに黒の毛皮コートが抜群に決まっていて、アンチヒロインのビジュアルとして完璧。主人公が売春に使っている部屋の鏡にリリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスのポートレートが貼ってあり映画好きならニヤリとさせられるところ。聖女と悪女の肖像に挟まれて映るヴィオレットの不安定な二面性が表現されると同時に、事件後パリ中に知れ渡りシュルレアリストたちのアイドル的存在となる未来を予感させる。

構成は中盤から、時系列組み換えに主人公の心象風景を重ねて編み上げられていく。ミステリーとして機能するものではなく、彼女が短絡的衝動に走った混沌が表現されているように感じた。幼き日、機関車を運転する父親に嬉しそうに手を振る姿が痛々しい。このさりげない情感描写がシャブロル監督の魅力なのだと思う。

後年作にタイトルの似ている「ヴィオレッタ」(2011)という作品がある。物語も時代設定も全く違うようだが、ジャケ写の雰囲気も良く似ていてイザベル・ユペールが母親役で出演している。近いうちに観てみたい。
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