半兵衛

侍の半兵衛のレビュー・感想・評価

(1965年製作の映画)
4.0
社会よりも己の存在、功名のためにテロに参加してしまった男の悲劇。ユーモア描写に定評のある岡本喜八監督は主人公の新納の陽性さを演じる三船敏郎のキャラクターを生かしつつシリアスな世界観のなかで際立たせることで、友を斬るなど様々なテロの非情な仕打ちにあっても気づかない主人公の軽薄さ、愚かしさを見事に表現する。新納が最後まで自分が犯した罪を気づかずに手柄と喜ぶラストの怖さにゾッとする。

井伊大老暗殺に参加するテロリストグループを美化することなく、その非情な社会を容赦なく描いているのも好印象。特にリーダーを演じる伊藤雄之助の老獪っぷりが堪らなく、彼の現実的なテロ思考が映画に奥深さをもたらす。他のメンツはあまり個性が描かれないので深みが感じられないが、その分中丸忠雄、天本英世、平田昭彦といった個性的な俳優たちの顔でカバーする。一方で新珠三千代、八千草薫、田村奈巳といった可憐な女優たちが殺伐とした映画を華やかに彩り人心地つかせる。岡本喜八監督の演出意図を汲んだ東野英治郎のユーモアとシリアスの両面を同時に表現する演技も最高。

でも本来なら若手俳優が演じそうな若者(といっても30手前くらいだけど)キャラを当時44~5歳だった三船敏郎が演じているので、おっさんが若者ぶっているような違和感を所々に覚えるのも事実だけどね。そりゃ時代劇では20代の役を50過ぎた役者が演じるなんてざらにあるんだけど、こういう闇落ちしていく血気盛んな役は若い人の方が適役だと個人的には思う。それと三船の強さがセガール並になっていることも未熟な男の物語を薄くしているかな、十人近くに襲われても無傷って…。

あとナレーションを担当する江原達怡の描写が浅いので感情移入しづらいとか、三船の友人である小林桂樹のエピソードが上手く使われていないとか色々
気にかかるところがあったけれど、ラストの殺陣シーンのド迫力ですべてが吹っ飛ぶ。テロリストも護衛する側も必死になって戦う地獄。

岡本喜八監督らしい編集を巧みに使った演出も素晴らしく、特にラストの首チョンパを直接は描かずにとれる雛人形の首、大量の血、首を刺した刀で切った瞬間を目撃したような錯覚を覚えさせる演出は名シーン。

ちなみに主人公の三船が己のアイデンティティをテロにぶつける様を見て『TATTOO〈刺青〉あり』を思い出してしまった、あれも30歳を前にして自分の存在意義を犯罪に見いだそうとする男の話だったな。
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