まこぞう

墨東綺譚のまこぞうのレビュー・感想・評価

墨東綺譚(1960年製作の映画)
3.2
状況説明のような序盤はちょっと退屈に感じたけど、話が回り始めたら俄然面白くなった。

ちょっとぽっちゃりで昭和な色気を発する遊女・山本富士子がおっさんにはたまらん。
その彼女が出会ったばかりの芥川比呂志相手に「お喋りしながらのご飯はなんて楽しいんでしょう♫」とはしゃぐ姿はそれまでの孤独を感じさせて泣けた。と同時に最近孤独な食事が苦痛になってきた寂しい我が身のことも考えてしまった。

どうしようもなく不幸を背負った女性だけど、中でも見ていて辛かったのが、病気の母のために体で稼いだお金を叔父さんに騙し取られたこと。正確に言えば、叔父さんは悪意をもって初めから騙したのではなく、ついうっかりの出来心で使い込んでしまい結果的に騙すことになってしまった。
つまり、悪人ではなく織田政雄が演じる見るからに善人で気の弱い叔父さんによって母親は死に追いやられてしまうし、山本富士子は地獄のどん底に落とされる。
これ以上に不幸なことなんてないだろう。

芥川比呂志と恋仲になったものの、母親に死なれ自身は病気をするわでボロボロになっていく山本富士子に対して、対面こそしていないけど、その生気を吸い取るがごとくみるみるうちに活き活きとなっていく本妻・新珠三千代の憎たらしさといったら…。
乙羽信子を相手に勝ち誇ったように妻というものを講釈し始める新珠三千代のゲスいことといったら…。

やはり最高ですな、新珠三千代は。

こんな話は遊郭ではドブに沸く泡のようにありふれたものと言わんばかりのラストショットも素晴らしかった。
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