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スモークのOguのレビュー・感想・評価

スモーク(1995年製作の映画)
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地下鉄が地上に姿を現しクネクネと高架の上を走る、小綺麗になる前のブルックリン。煙草屋で交わされる立ち話、吐き出される煙草の煙、連鎖していく小さな奇跡。
煙草屋の雇われ店長のオーギー役は最初トム・ウェイツが演ることになっていた。名盤『RAIN DOGS』のジャケットを飾るアンダース・ピーターセンの写真のイメージがあったのかもしれない。土壇場でトム・ウェイツが逃げ出したのでそれは叶わなかったけれど。
兎も角、オーギー役がハーヴェイ・カイテルで良かった。脚本と一字一句違わずエピソードを話すカイテルの表情を捉えたカメラが、観客が気づくか気づかないかくらいのスピードで、ゆっくりとズームしていく映画終盤の長回しによる独白シーンを観た後だと、トム・ウェイツには悪いけど余計にそう思わざるを得ない。
その独白をもとに、ウィリアム・ハート演じるポール・ベンジャミンは劇中で小説を書く。それが映画の原作でもあるポール・オースター「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」。『翻訳夜話』では柴田元幸と村上春樹がそれぞれ訳していて、その「競訳」を読み比べるのもおもしろい。
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