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ダークナイトのyuseのレビュー・感想・評価

ダークナイト(2008年製作の映画)
4.2
映画「JOKER」を鑑賞した後で、7年ぶりに「ダークナイト」を再鑑賞。大学生だった初鑑賞時もこの映画に衝撃を受けたが、今見返してもこの映画のテーマといいストーリー性といい作品の奥の深さに感動した。ストーリーも今回の鑑賞でようやく掴めた気がするほどやや難解な作品。
ノーラン監督のバットマンシリーズは、ゴッサムシティが現実社会を上手く投影された形になっていてとても感慨深い。
決して結末は多くの観客にとって歓迎されないものではあると思うが、話題性間違いなしの傑作といえる。






↓以下はネタバレを含むレビュー
【Motivation(鑑賞動機)】
本来は映画「JOKER」を鑑賞する直前に再鑑賞したかったが、時間を割くことが出来なかったので「JOKER」鑑賞後に鑑賞。「ダークナイト」の鑑賞は7年ぶり3度目。「バットマン・ビギンズ」「ダークナイト・ライジング」はそれぞれ2回、1回ずつ鑑賞済み。

【Looks(世界観)】
貧富の格差が激しく、犯罪の絶えないゴッサムシティが舞台。「JOKER」との比較になってしまうが、バットマン視点の作品だからか今作の方がゴッサムシティが美しく描かれている気がする。「JOKER」に出てくるゴッサムシティは暗く淀んでいる印象。

【Scenario(内容)】
ブルース・ウェインはゴッサムシティの市民に正体がバレないように仮面で素顔を隠して、バットマンとして犯罪の沈静化を図っていた。そこに、地方検事として就任したハービー・デントという素顔を隠さない「光の騎士」と称される市民の正義と、ジョーカーという名の金や利益目的ではなく人殺しを楽しみとする狂気に満ちた犯罪者が現れる。ジョーカーは、バットマンに正体を明かして名乗り出るよう要求し、さもないと次々と人殺しを行うと声明する。ハービー・デントがバットマンの真の正体を隠蔽するために、自分がバットマンであることを名乗り出るが、それによってジョーカーに追われ、愛人のレイチェルまで殺されてしまう。怒りに燃えたデントはジョーカーの思惑通りトウーフェイスとなって正義を失ってしまう。バットマンはジョーカーを捕らえるも、デントが悪の手に染まったことを隠すためにも自分が暗黒の騎士(ダークナイト)となって警察から追われる身となる道を選ぶ。
今までのコミック映画は、ヒーローが悪に打ち勝つ結末が当たり前だったが、今作はその常識を覆してしまった。ハービー・デントという正義の象徴を意図も容易く悪に変えてしまったり、市民の乗るフェリーと囚人の乗るフェリーどちらを爆破させるか、バットマンの正体を知る弁護士リース殺害と病院爆破のどちらを選ぶかなど、ジョーカーの悪行は人間なら誰もが持っている悪の部分を引き出すようなエグさを備えていてとても心に刺さった。

【Cast(役者・キャラクター)】
悪役のジョーカーが非常に魅力的な存在として描かれている。彼の狂気に満ちた叫び声と振る舞いは、人殺しそのものが快楽の源であるため行動が読めず特異的な存在感を示している。逆にバットマンは、いつも仮面を隠して正体を明かさず、最終的には警察から追われる身となってしまうためとても格好悪いキャラクターとして描かれている。この映画の公開当初は、このヒーローの堕落ぶりに多くの観客が息を呑んだことだろう。
ハービー・デントも非常に良い存在感を発揮している。正義感に満ちた発言、行動がとても堂々として魅力的だったからこそ、悪に落ちた時に感じたショックは大きかった。
ジム・ゴードンも大きな役割を担っていて魅力的だった。市長暗殺時に庇って殺されたと思われたゴードンが実は生きていたという展開で、家族の元に帰って妻とハグするシーンは数少ない和みのシーン。
レイチェル・ドーズも、個人的には「バットマン・ビギンズ」のキャストの方が好みだったが、ジョーカーの前でデントの愛人であることを名乗り出る勇敢さに心を動かされた。

【Profound(作品の深み)】
今までのヒーロー映画は、ヒーローのために悪役が存在していたが、今作はその真逆であったということ。ジョーカーがジョーカーであり続けられるのはバットマンが居てこそであるということ(劇中でもジョーカーは「バットマンはおもちゃだ」と言っている)。バットマンの出現によって、ゴッサムシティの犯罪が抑圧されることで返って貧困層の反感を買い、反動として手に負えない狂気的犯罪が起きてしまったということ。バットマンの存在意義を揺さぶるような重厚なテーマが今作品の深みかと思われる。

【Impression (印象深いシーン)】
強烈に印象に残っているのは、ウェインがデントとレイチェルを招待したパーティにジョーカーが乱入してきたシーン。ハービー・デントを探すジョーカーがとても怖くて印象的。また、すっかり顔面が変貌してしまったデントも印象的。2つのフェリーが爆破されそうになるシーンも目が離せなかった。

【Comments(その他総評)】
7年ぶりに再鑑賞して、改めてこの作品の醍醐味に触れることが出来て良かった。ヒーローの存在意義をここまで否定してくる映画は、後にも先にもこの映画しかないだろう、それだけこの作品のヤバさが際立つ。「JOKER」を鑑賞してから観ると、よりジョーカーというキャラクターが魅力的に映ってしまう。そして思った以上にバットマンが格好悪い、そんな映画だった。
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