シモン

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのシモンのレビュー・感想・評価

5.0
序盤から傑作の予感がしてたけどやっぱり大傑作だった。
PTAの進化スピードえぐいな

ノーランはこの映画を見てかなり感化されたんだろうな。

小さな息子とのビジネスコンビは、地下鉄道に出てくる黒人奴隷ハンターのコンビを思わせる。

ダニエル・デイ=ルイスのメソッド演技、話には聞いてたけどここまでとは
心臓バクバクで画面釘付けだったわ

翌年のダークナイトでもジョーカー役のヒースレジャーがメソッド演技してるのなんか時代を感じる

ザ・マスターのホアキンフェニックスしかり何を考えてるかわからない怖さがあって映画全体がその演技にもっていかれる

ポールダノの信仰心の強いキャラもかなりリアルだった

それにしても1人の考えで荒地に町を丸ごと作ってしまうとは…
オッペンハイマーもだけど野望のある狂った男のすることって想像がつかないわ
ここまでスケールを度外視してくる映画、ヘルツォーク、コッポラ以来じゃないか?
ヘルツォークに限っては実際に撮影中に何人も人死んでるし

あと何もない場所に巨大な設備が出てくる映画なんか好きなんだよなー

ルートヴィヒやアラビアのロレンス並みの栄光&墜落人生映画だった


▼ネタバレあり

富を失うことを恐れ、神からの救済(善良な自分に生まれ変わること)を拒み続けたことで、石油という魔物に取り憑かれてしまった男の末路

PTAはここから「救済」という着想を得て次回作のザ・マスターを作ったのかな
そういう意味では、ゼア・ウィル・ビー・ブラッドとザ・マスターは二部作と言える。


ダニエルにとって信じられるのは「石油という富」ただ一つ。
彼は自分のことについて他人に話すことを嫌い、なおかつ人と接することなく暮らしたいと考える内向的な人間。そんな彼に唯一必要なのは「友」だった。
その友とは、息子であるH・Wや、神父のイーライ、弟になりすます謎の男だ。

ダニエルがイーライの悪魔祓いや宗教活動に胡散臭さを感じている描写が多々あるが、実際はそこにはイーライが胡散臭いことよりも、むしろダニエル自身が己の心に(血を吸う)悪魔が潜んでいることに気づけていないという事実が隠されている。

交渉に来たスタンダードシェルの男たちも、一見土地の権利を奪う商売敵に見えるが、ある意味では「息子を大事にするべきだ」と善良の道に導こうとしており、富を失うことを恐れたダニエルは彼らを批判し侮辱する。

息子のH・Wに対しても、手を焼かされることに嫌気がさして、遠い町へと追放する。

途中で出てきた弟を名乗る男も一見怪しく見えるが、本当はダニエルにとっての良き友になり得る人物であり、人を信用できない(富を他人に奪われることを恐れる)ダニエルは彼を銃殺してしまう。

最終的に息子H・Wとも縁を切り、さらにはお金を失って窮地に立たされたイーライを撲殺してしまったダニエルはすべての友を失い、孤独で惨めな人間となってしまう。

サントラを担当したジョニー・グリーンウッドのジャケ写(入信式で教会の十字架の前でダニエルが跪いている絵)は、ダニエルが己の心を悪魔に売って人間を捨てた瞬間を切り取っている。
なぜなら「パイプラインのため」の入信だからだ

弟を名乗る男「なあ、友達だろ」

イーライ「友達じゃないかダニエル。我々は兄弟じゃないか」

これらの言葉を最後に友人たちはいなくなった。
残念ながら、その後彼に残っているのは富と孤独な余生だけだ。
シモン

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