一休

半次郎の一休のレビュー・感想・評価

半次郎(2010年製作の映画)
5.0
確かこの作品を観に行った10年ほど前、2000年頃だったか、榎木孝明が徹子の部屋に出た時、「今、どうしても映画として作りたい題材があるんですが、大手は乗ってこないので、自分で何とかしたくて頑張っているんです。」と言っていた。その時は、どんな作品を作りたいのか分からなかったので、「【ロッキー】的に作りたいのかな?」と冷ややかに聞いていたものだ。ところが映画館で、榎木孝明が小品として【半次郎】を作ったという宣伝を見て、「ああ、中村半次郎を映画にしたかったのか!」と至極納得がいった思いがした。

歴女といわれる歴史好き女子が現れるほどに、日本は歴史ブームになっているようだが、暗殺者として生きた中村半次郎は、土佐の岡田以蔵共々、それぞれ西郷隆盛や、坂本龍馬の随伴としてしか映像化されていないことが多い。しかも、暗殺者の常として、一様に不幸な最期を迎えた中で、西郷隆盛が日本初の陸軍大将になった時、同時に日本初の陸軍少将にまで登りつめている珍しい人物だ。

幕末の薩摩藩では、西郷吉之助を中心に藩を上げて尊王倒幕を推し進めていた。父親が娘の病気治療のために公金に手を付けたという事で罪を得て役職を解かれたため、唐芋(さつまいも)を主食とするような貧窮の中で育った中村家の長男・半次郎は、野山を駆け回りながら薩摩示現流に磨きをかけて、己の出る日を待ちわびていた。そんな中、西郷が禁裏警備のために藩の上士を連れて京に上ると聞きつけ、是非にもと唐芋を手土産に申し出る。市中での暴れっぷりを聞いていた西郷は、半次郎を一行に加えて京に上る。半次郎は、禁裏夜警中に忍び込もうとした長州藩士を斬ったところから、人斬り人生が始まるのだが、京都で親しくした煙管屋・村田屋の娘・さとと恋仲に落ちてしまう。しかし、時代が二人を結び付けることなく、時は明治になり、半次郎は名を桐野利秋と名を変え、陸軍少将を拝命する。からいも侍と呼ばれた貧しい境遇から、一躍出世頭となった桐野利秋は、フランス製の香水の香りを漂わせ、精悍な顔付きで、東京でもモテモテの将校になっていた。
ところが『征韓論』を受け入れられなかった西郷が下野するとそれに付き従い、西郷と共に薩摩に帰ってしまう。そして、田舎で唐芋畑を耕したり、薩摩のための兵学校で教授したりと、いつか事が起こった時のためにと暮らしていた。ところが明治政府は、天皇にもおぼえの良い西郷が煙たくて仕方が無い。そこで、密偵を送り込んで動向を調べたり、西郷暗殺計画を推考したりしていたのだが、兵学校の火薬を他へ移そうとするに及び、兵学校の生徒たちが決起してしまい、とうとう西郷を立てて軍を発することになってしまう。
しかし西郷率いる薩摩軍は熊本城を占拠できず、田原坂で官軍と猛攻の上で敗退し、熊本から宮崎へと後退を余儀なくされ、ついに薩摩・城山へと押し込められてしまう。
薩摩軍の敗走を新聞で読んだ村田屋の娘・さとは、居ても立ってもいられず、一目でも半次郎の顔を見ようと薩摩へと向かう。しかし、やっと最後に見た半次郎は、官軍兵士の銃弾を受けて倒れた姿であった。

榎木氏本人も相当に示現流を学んでいるらしく、映画の中でも、薩摩軍兵士が刀を抜く場面とか、TV時代劇とは違った拘りを以って挑んでいる。もちろん、そんな斬り合い場面が沢山出てくる事は出てくるのであるが、今回の映画で一番怖かったのは、東京で出世した半次郎が妾・藤の家に滞在している所へ、京都からさとが訪ねて来て、藤と女の舌戦を繰り広げる場面だ。いや~~、侍同士が刀を抜き合って対峙していれば、次にどうなるかは想像できるのだが、この場面だけはいったいどうなるかとハラハラしどうしであった。ヾ(; ̄▽ ̄Aアセアセ
そう思うと、他の演者の魅力をも引き出す雛形あきこの演技力たるや、恐ろしいものであったと認めざるを得まい。(爆)

この映画は榎木孝明さんが有志を募って作ったもので、小品扱いされはいるが、混迷の世を迎えた日本人には是非観てもらいたい作品で、六本木でも10日ほどしか上映されていないのは非常にもったいない。大手映画会社が、打ち出した時代劇にも引けを取らない、第一級の侍映画であると評価したい。

この時誘ったうんちく奴隷二名と、観賞後に食事&お茶をしながらの歴史うんちく責めをしたのだが、二名とも一気に中村半次郎へ傾倒してしまったようで、「強くて、カッコよくて、地位もあって、金を持ってる男の話はタブーだな。」と思った一休であった。( ̄― ̄;)
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