半兵衛

あした来る人の半兵衛のレビュー・感想・評価

あした来る人(1955年製作の映画)
3.0
ドラマ内での人の出入りや舞台の移動など物語の交通整理は凄い巧妙なのだが、あまりにもサクサク進みすぎるので肝心のドラマトゥルギーは薄くなり見ごたえが無くなって観賞後自分は何を見たんだっけという状態に。登場人物もみなおのれの役割を淡々と演じている状態で、人間としての感情が今一つ感じられないという風俗作家・川島雄三の悪い面が出てしまっている。最も日活映画製作再開一周年の記念映画である以上、変なことは出来ないというプレッシャーがあったのかもしれないけれど。

川島監督の演出は登場人物に感情移入できない分、彼らの趣味や細かいディテールにこだわっている印象に。例えば三國連太郎のカジカ研究は物語の範疇を越えてかなり詳細に語られ、三橋達也の登山への情熱も執拗に語られる。でもドラマと上手く絡んでいないので妙なこだわり以上に昇華されていないけどね。

でも新珠三千代や月丘夢路といった女優を綺麗に撮っている手腕はさすが川島監督、特にノーブルな服装の新珠の美しさはハリウッド女優にも匹敵する。

オープニングとラストのショットが繋がっている演出はセンスがあって嫌いになれない、あと新珠のうなじや耳を強調した演出も不思議なエロスを画面から醸し出してうっとりする。あと川島雄三作品の常連・小沢昭一の必要以上に画面でこちょこちょ動き回っているさりげない怪演も必見。

ちなみにこの映画の山村聰と新珠三千代の関係性が『女は二度生まれる』の山村聰と若尾文子の関係と被っているのは偶然なのか?
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