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ハンバーガー・ヒルのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ハンバーガー・ヒル(1987年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

1969年5月、アメリカ軍第101空挺師団は、南ベトナムのエイショウ・バレーにある丘、937高地で「アパッチ・スノー作戦」を開始する。しかし高地に陣取った北ベトナム軍からの容赦ない機銃掃射と手榴弾攻撃により、兵士たちは次々と被弾し命を落としていく…。

公開時に劇場で見て以来の再鑑賞。
アカデミー作品賞を受賞した「プラトーン」あたりからベトナム戦争映画が頻繁に作られた記憶があるが、本作はほぼ「プラトーン」と同時期の製作。

激戦地である937高地は、兵士が爆風で吹き飛ばされ、ミンチ肉のようになったことから「ハンバーガー・ヒル」と呼ばれた。
そのベトナム戦争の過酷な戦闘を徹底したリアリズムで描写した、1987年製作の実話ベースの戦争映画の秀作。
「プライベート・ライアン」を想像して貰えば話は早いかもしれないが、なかなかのグロさで、初見の時は見た後にグッタリと疲れた思い出がある。
ドラマ重視の「プラトーン」が無ければ、何かしら(せめて特殊効果くらいは)オスカーを獲得していただろうと思われるほどの臨場感だ。

序盤は、新兵が空挺師団に入隊して来た日常風景なので、なんてことはない。
泥まみれになって土嚢で塹壕を作ったり、病気を防ぐにはまず歯磨きからなんて、戦闘とは無縁な「兵士の休日」のようなエピソードが続く。
軍曹が娼館に行って骨休めするのも実際にあったのだろう。
初めて見る人は、序盤の生温さに拍子抜けするかもしれない。
だが、死地である「ハンバーガーヒルを攻め出してからは一気に様相が変わる。

戦闘開始直後から、高地に陣取る北ベトナム軍の容赦ない機銃掃射と手榴弾の攻撃を受け、米兵たちは丘の急斜面で次々と被弾していく。
戦闘の常識だが、見晴らしの良い上から狙うベトナム軍の方が圧倒的に有利だ。
日本人としては日露戦争時の二百三高地を想像してしまう。
さらに彼らの行く手を豪雨と泥濘みが阻み、滑り落ちてはベトナム兵の格好の的となる。
終いには信じられない話だが、泥まみれで味方と敵の区別がつかぬ米軍戦闘ヘリから誤射されてしまうシーンも。
まさに生き地獄の戦闘が10日間にわたって続けられる。

戦闘の合間に時折兵士同士の会話はあるのだが、本作は特定の誰かを主人公としたドラマチックな起承転結のストーリーは無い。
かと言って、誰もが主役の群像劇でも無い。
正直なところ、リーダーシップを発揮する軍曹と衛生兵のドク、何度も名前を間違えられる「アルファベット」というあだ名の兵士以外は、ちゃんと名前を言わないし、覚えられない。
名もない兵士の目線に撤し、戦場を再現するのを目的としているのは明らかだ。
ナレーションや本人たちの語りが無い再現ドラマと言って良いだろう。
名もなき若きアメリカ兵を演じるのは、当時はほぼ無名の俳優たち。
そこも現在の再現ドラマに似ている。

まだCGなどない時代、何と言っても戦闘シーンの迫力は凄まじい。
本物のF-4ファントム戦闘機が超低空で山の上を飛び、爆撃の雨やナパーム弾を降らせる。
爆発は当然仕掛けだろうが、その爆風は撮影カメラのレンズが一瞬震えるほどの衝撃。
手榴弾の爆発もキャストのすぐ真近で起こっている。
コレが戦場だと言わんばかりのド迫力だ。
もし自分がそこに居たらと思うと、とても恐ろしい。

何気ないシーンにもこだわりがある。
序盤の村でのシーンでは戦闘経験者の兵士は、ライフルの銃口にビニール(コンドーム?)を被せている。
泥で銃口が詰まり、暴発しないためだ。
ヘリのシーンでは、歩兵を地上に展開させるヘリが地上から50センチ程度の空中でホバリングを保っている。
完全に接地させると敵が突然出て来た時の緊急離脱が難しくなってしまう。
撮影に協力したパイロットの腕前も凄い。
終盤、丘を奪えるか?というクライマックスで、ベトナム兵の抵抗に弾切れを起こした兵士は、死んだ兵士の武器を取り、立ち向かっていく。
序盤で銃口にビニールを被せた安全性など、もはや考えられない。
痛み止めのモルヒネはとにかく身体を動かすために雑に負傷兵に打たれる。
なりふり構わぬ切羽詰まった状況は充分に伝わってくる。

ようやく名前と顔が一致する頃に、前線の兵士が淡々と死んでいく。
その度に新兵が補充される兵士は正しく消耗品扱い。
戦地に訪れる報道陣や兵士たちに届く手紙から分かる反戦ムードに包まれたアメリカ本土との意識の乖離に、当時のアメリカの現実も伝わってくる。
彼らは本土に帰っても「人殺し」と蔑まれ、居場所などないのだ。
丘を制圧したものの、兵士たちに一片の喜びも無いエンディングは虚しいの一言に尽きる。

アメリカ目線での戦争の愚かしさしか描ききれていないのかもしれない。
現在の多様性万歳の風潮ならば、娼館だけでなく、ベトナム軍の事情も描くべきだと言われるのだろう。
しかし、戦争の愚かしさという普遍的なメッセージは十分に胸に刺さる。

後で知ったが、製作・脚本のジェームズ・カラバトソスは、実際に従軍経験があり、自らの壮絶な体験を元に本作を脚本化。
また、監督を務めるジョン・アーヴィンも、かつてBBCのドキュメンタリストとしてベトナム戦争を取材していたらしい。

そんな当時のベトナムを己の目で見た2人が手を組んで製作したのが本作。
ベトナム戦争映画屈指の名作として名を馳せているのも当然と、改めて実感した次第である。
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