デニロ

スケアクロウのデニロのレビュー・感想・評価

スケアクロウ(1973年製作の映画)
4.0
1973年製作。脚本ギャリー・マイケル・ホワイト。監督ジェリー・シャッツバーグ。

日本公開が1973年の秋。わたしの田舎でも同じ頃、リバイバルの『俺たちに明日はない』と一緒に公開された。あの『俺たちに明日はない』の印象が希薄だったのは、実に本作が高校生のわたしに強烈に響いたからです。数年前『俺たちに明日はない』を再見して、そのラスト数カットに凍り付いたほどなのに、あの時の高校生は、ひとり映画館の暗闇の中アル・パチーノとジーン・ハックマンの何処に打ち震えていたのでしょうか。

お金は大切だけど重要ではない。『ナイト・オン・ザ・プラネット』の台詞だ。そんな物語。

田舎道。道路を隔てて案山子の様に突っ立ってヒッチハイクをしようとサムズアップしているふたりの男。俺が先だ、そばに寄るなと道路の向こう側のアル・パチーノにとげとげしく振る舞うジーン・ハックマン。タンブルウィードがふたりの間を転がっていく。なかなか停まってくれない車にまで毒づくジーン・ハックマン。イライラとちびた葉巻にライターで火を付けようとするけれど、オイル切れ。それに気付いたアル・パチーノがマッチ箱に残っていた最後の1本を擦って火を差し出す。

ジーン・ハックマン/マックスは登場の第一印象通り、短気で他人を信じない男として描かれている。幾重にも重ねて着る衣服。寒いから。アル・パチーノ/ライオンの方は、そんな彼の孤独を理解しているかのようにゴリラの真似をしたり電話を掛ける真似をしてイラついているマックスを鎮めようとしている。ライオンは言う/。案山子とカラスの話を知ってるか。カラスは案山子を恐れていると思われているだろうけど、本当は違うんだ。カラスは笑っているんだ。/カラスが笑うわけないじゃないか。/案山子のおかしな顔や帽子や服装を見て笑うんだ。案山子をいい奴だと思って、だからこいつの畑を荒らすのは遠慮しておこう。/そんなカラスのなんかいるわけないじゃないか。/本当さ。笑うんだよ。案山子はそんな風にして畑を守るんだ。/真逆の回路。

マックスはピッツバーグで洗車場を起業するという。そして、何故かライオンを誘うのです。金はピッツバーグにある。計画もこのノートにある。完璧だ。マックスはライオンに何を感じ取ったのか。そのふたりの道行きで・・・・・。

・・・・ライオンが正体を失ってその目が暗闇になって、早くピッツバーグに行こう、お前が居なけりゃ洗車場が開けない、とマックスが叫んでもライオンの耳には届いていない。病院に運び込みマックスはかんがえる。こいつは俺に最後の1本のマッチで火を付けてくれた。そんな男だ。一緒に仕事をしようと約束した男だ。金はある。大切な金だ。でも重要なものは目の前にいる。ピッツバーグに行けば入院費はどうにかなる。マックスは駅に急ぎピッツバーグ行のチケットを買う。係員に、往復?と聞かれると、もちろん!と応えて料金を差し出すが少し足りない。💡!靴を脱いで踵にしまい込んだ一枚の札を取り出してニンマリとして係員に渡す。それは、ライオンがマックスに差し出した最後のマッチで擦った小さな火じゃないか。

高校生のわたしはこれは友情を描いた話なんかじゃないと思ったはずだ。そばにいる人を感じて、知って、そして一番大切なことはその人のことをかんがえることだと、本作をそう感じ取ったはずだ。どんな高校生だったかもう忘れてしまった。その時に感じたままにわたしはその後を生きて来ただろうか。目の前にいる人をちゃんと感じ取って、知ろうとして、そして、ちゃんとかんがえていただろうか。でも思う。本作を観て、その時そう感じた高校生をわたしは褒めてやりたい。

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