タチユロ氏

ロレンツォのオイル/命の詩のタチユロ氏のレビュー・感想・評価

4.0
「難病もの」にはなるのだが、とても綺麗な美談にする気など更々ない。そして個人的にはこの作品のバランスこそが真摯だと思う。

最愛の息子がALDを患ってしまった夫婦(スーザン・サランドン&ニック・ノルティ)。まだALDという病名すら付いたばかりで、専門医も含めて治療法も手探り状態。治験一つ通すにも時間がかかるが、息子の命は風前の灯火。苦しむ息子の傍らで夫婦は死に物狂いで勉強し、治療法を探し続ける。

“死に物狂い”という言葉がこれほど的確に響く映画もないだろう。この両親は全てを犠牲にしてでも息子の命を諦めようとしない。なぜなら、誰よりも苦しんでいるのは息子だから。
「生きる」ということがいかに過酷か、そしてだからこそ「生きる」それだけでなんと素晴らしいことか。ここには監督のジョージ・ミラーが一貫して語り続けているテーマがある。

実話の映画化で、この夫婦とロレンツォくんが成し遂げだことは偉業だとは思う。そしてその偉業は狂気の淵に立つまで命を燃やしたからこそ掴み取ったものでもある。
まさにジョージ・ミラーだからこそ、これだけ真摯に美談へと逃げずに描けただろうし、「ロレンツォのオイル」ができて間もない1992年にこれを作っているところに、ミラーの「今、語るべき物語があるはずだ」という姿勢も伺える。

(ただし結果がついてきたからこのやり方は良かったけれど、医師を完全に無視して独断の治療法に走るっていうのはかなり危険だよという留保付きではある)
タチユロ氏

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