櫻イミト

私は貝になりたいの櫻イミトのレビュー・感想・評価

私は貝になりたい(1959年製作の映画)
3.0
橋本忍の監督作全3本の初作。前年に放送した同名同主演のテレビドラマの映画化。原案はBC級戦犯とされた元陸軍中尉が投獄体験をもとに書いたフィクション「狂える戦犯死刑囚」(1953)。

戦後、日本のC級戦犯として逮捕された高知の床屋の運命を描く。。。

長年ぶりの再鑑賞。黒澤明監督が本作を観て、橋本監督に「これでは貝になれないのではないか?」と語ったのは有名な逸話(2008年のリメイクの際に橋本は脚本を書きなおした)。しかし、もしも本作が悲劇として描かれたのではなく、日本人の「貝になりたい」という思考傾向を自己批判したものだったなら話は違ってくる。

この夏にたくさんの戦争映画を観た上で本作に感じたのは、戦後日本人の弱点が詰まっているということ。端的に言えば、戦争の総括を「被害者意識」で停めてしまい、その先に得るべき非戦のための論理に思考を進められない。その姿は「貝」と同じようなものではないか。

「貝になる」とは「口を固く閉ざして黙り込むこと」の比喩だ。「貝」のような国民に戦争を停めることはできない。本作を反面教師と捉えれば現代的意義は大きいと思う。もちろん本作の実際の当事者たちを問うものではないが、平和な今を生きる自分が戦争を繰り返さないためにあるべき姿勢は決して貝にはならないことだと思った。
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