Jeffrey

はるか、ノスタルジィのJeffreyのレビュー・感想・評価

はるか、ノスタルジィ(1992年製作の映画)
3.5
「はるか、ノスタルジィ」

本作は大林宣彦が平成五年に監督した山中恒が映画のために書き下ろした同名小説を原作とするもので、東映系で公開され、山中恒の故郷である北海道、小樽を舞台に、人気小説家の男が、高校時代の自分とともに過去の記憶を辿っていく様を描く素晴らしい一本で、この度二Kレストア版でBD化され久々に見返したが良き日本情景があり、久石譲の音楽がまた良い。好みの作品であるなと改めて思わされた。彼の作品がお馴染みの女優石田ひかりの濡れ場を作ったのは凄いなと。確か本作は「青春デンデケデケデケ」よりも先に撮影終わらしていたが、先に前者を公開させていたと思う。まず、一九九一年の六月から七月にかけて撮影が行われているこの作品は、バブル景気が沈滞し、厳しい予算での制作を余儀なくされたが、バブル末期にとられた本作では東宝スタジオに巨大なオープンセットを構えるなど、大林のフィルモグラフィ中でもかなり大掛かりな制作体制が実現している。

さらに映画の構想自体は、「ふたり」以前の一九八〇年代末に始まっている。きっかけは「転校生」「さびしんぼう」の原作者である山中恒が自身の故郷、小樽を舞台にした作品をとってほしいと大林に要望したことだった。大林は、まだ内容も決まっていない段階で山中とプロデューサーの小林恭子を伴いその故郷のロケハンをやり、その意気に押されるようにして山中が原作小説を書き上げたと言う。脚本は当初、「転校生」「さびしんぼう」を手がけた人物に依頼されたが、行き詰まって降板し、ギリギリのスケジュールの中、結局、大林自身の手で描かれたそうだ。商業デビュー後の映画で小林が単独で脚本にクレジットされているのはこの作品だけであり、「ふたり」などで大林と度々コンビを組んだ脚本家桂千穂はこれは監督自身でないと書けないシナリオだと評しているそうだ。

大林監督は、僕の映画には僕しかいない、つまり自分事の映画である、と語っているが、本作はその意味で究極的な自分事の映画と言える。物語は、少女を主人公とした小説を書いている中年の作家が、思春期を過ごした小樽を数十年ぶりに再訪し、そこで出会った少女はるかに導かれるようにして、痛ましい過去の記憶と対峙する、と言うものである。大林映画とともに歳を重ねてきた観客ならば、この作品がいたるところに大林宣彦と言う映画作家の記憶と妄執が宿っていることに気づくはずだとされている。物語の核となる二人の、あるいはー人の少女はるかをめぐる倒錯は「さびしんぼう」に登場した百合子をめぐる倒錯と明らかに呼応しているとの事。久々に見返しても、大林作品はそれぞれに記憶の甘美さ、儚かさ、傷ましさを映し出しているのが特徴である。そして少女を止められた時間の中に閉じ込めてしまうかのような表現もしばしば見受けられる。そして監督自身のモノローグである。
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