SHOHEI

はるか、ノスタルジィのSHOHEIのレビュー・感想・評価

はるか、ノスタルジィ(1992年製作の映画)
4.4
少女小説家・綾瀬慎介は親友で挿絵画家の紀宮の死をきっかけに故郷の北海道小樽へ数十年ぶりに帰ってくる。偶然出会った少女は自身の小説のファンだと語り、ともに小樽を巡る。そこに古風な身なりの少年が現れ…。

『転校生』『さびしんぼう』の原作者・山中恒と大林宣彦が久々にタッグを組んだ作品。中年と少女の恋愛を描いた今じゃ逮捕案件のロマンス映画。内容に嫌悪感をあらわす人がいるのも理解できるが『さびしんぼう』が大好きな自分としては似通った部分もあり、まごうことなき傑作。青春の追憶、郷土、少女は大林宣彦の一貫したテーマ。過去と贖罪について触れられる冒頭で作品のベクトルがなんとなく察しがつくが、主人公の綾瀬は自分の中の痛ましい過去を捨てた中年。三好遥子という少女とともにかつての故郷小樽を巡って忘れていた記憶をたぐり寄せてゆく。クリーニング屋の車を借りて各地をまわるのだが、車体には「遠い探求、魂の洗浄」と書かれている。魂の洗浄=過去の清算で、やがて綾瀬の中に閉じ込めていた失恋の記憶も呼び覚ます。そもそも綾瀬の書く小説も中年と少女の恋愛を描いた作品で、記憶のどこかに追いやった青年時代の恋愛を引きずったまま大人になってしまったのだと察しがつく。そしてその小説の内容も小樽の町並みのように理想的な偽りで塗り固めたものであることが語られる。思い出の中の少女の姿を遥子に演じさせるシーンを象徴として、全編通してヒッチコックの『めまい』に通じる変態性も帯びている。綾瀬の人物像は監督の大林ともシンクロする。大林は長年少女が主役の映画を撮り続けてきた監督でありその根底には「変わってゆくものをカメラに収めたい」という想いがあった。そしてその象徴が少女であったことをインタビューで語っている。『時をかける少女』もあの頃の原田知世をフィルムに焼きつけたいという大林や角川春樹の一方的な片思いから始まったもの。今作は石田ひかりが主演だが、2年前の『ふたり』ですっかり気に入ってしまい本作でも起用したエピソードがある。ラストシーン間際で石田ひかりが尾美としのりから「転んではだめだよ」と言われるシーンは少女の成長や変化を匂わせる。尾美のほか、岸辺一徳、ベンガルや柴山智加らお馴染みのキャストが集結。音楽は盟友・久石譲でオープニングから美しい愛のテーマを聴かせてくれる。映像的に目立った大林演出はないが、内面では作家的テーマを全開にしたひとつの集大成。
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