リンコロシネマ

破戒のリンコロシネマのレビュー・感想・評価

破戒(1962年製作の映画)
4.5
このところジュブナイル作品が続いたので再び課題の映画へ。

島崎藤村が1906年に自費出版した『破戒』は今までに3度映画化されている(1948、1962、2022)。中でも2回目の1961年(市川崑監督)の評価が高い。前年1960年は部落解放同盟が「部落解放要求貫徹」を掲げ世間が部落問題に対する意識を高揚させていた年であり、そんな中での映画『破戒』に込められたメッセージはあるものの、やはり商業的に作られた作品ではある。しかしその映像に込められた島崎藤村著の初出1906年から続く差別への根深い意味合いや時代考察は鋭い。

差別問題に詳しい歴史学者である黒川みどり先生の著書「描かれた被差別部落」を読了してから2度目の鑑賞。

冒頭、丑松の父が種牛に襲われて死んでから遺体が発見され種牛の肉がさばかれるまでの場面に秘められた描写や会話に含まれている部落出身という「身の素性(“描かれた被差別部落”より)」の重みへの理解度が飛躍的に増し部落民への差別性をあからさまにする。

この問題への答えがなかなか見つからぬのは(差別しなければいいというシンプルな答えではあるが…)3000年近く続くインドのカースト制と同等に根深い歴史に刻まれているからだろうか?だが知ってしまった限りは避けて通れない。映画『破戒』とは関係ないが差別の仕組みや歴史を調べていくうちにフッと気づいたことがある。

水平社宣言が初めて読み上げられたのが1922年。関東大震災が元で福田村事件が起こったのは大正デモクラシー真っ只中の1923年。

映画『福田村事件』で生き残った少年があの状況で水平社宣言をソラで読み上げたとはにわかに信じがたいが…映画が始まりすぐの橋の場面で少女が少年に「これはいつかアナタを守ってくれる」と渡したお守りは水平社宣言と関係があったのか???今さらなのかもしれないが今現在の私には資料が少な過ぎる。もう一度観て確かめねばならないと痛烈な思う。

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(以下、2023年5月17日にGEOでレンタルしたときの鑑賞後レビュー)

この映画の存在は歴史学者・黒川みどり先生の講義で知った。いま読んでいる本『描かれた被差別部落 ― 映画の中の自画像と他者像』の中でも重要な位置付けとされている映画なのでどうしても観たく近所のレンタル屋さんに行き辿り着く。

宮川一夫のカメラの迫力、芥川也寸志の音楽が非常に効果的に響き重厚な作品に仕上がっている。

黒川先生が推す理由を理解する。

三國連太郎、岸田今日子、杉村春子、長門裕之、市川雷蔵…素晴らしい演技…そして若い。佇まい、所作、色香…今の役者とはまた違った魅力を放つ。